選挙ってこんなに面白いんだ! YouTubeで”ヒルマニア”を増殖させる2人が映画界に殴り込み

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センキョナンデス
左からプチ鹿島、ダースレイダー、大島新(プロデューサー)
センキョナンデス
ダースレイダー
プチ鹿島

【日本映画界の問題点を探る/YouTubeから映画界に殴り込み!? 1】4年に1度の統一地方選挙が予定されているため、2023年は“選挙イヤー”とも呼ばれている。そんななかで誕生したのが、型破りな政治ドキュメンタリー『劇場版 センキョナンデス』(2月18日より全国順次公開)。本作は、ロンドン育ちで東大中退という経歴を持つラッパーのダースレイダーと、新聞14紙を毎日読み比べしている時事芸人のプチ鹿島という異色のコンビが監督を務めている。

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ある番組で共演した際に意気投合した2人は、第1回緊急事態宣言下の2020年4月より、時事ネタトーク番組『ヒルカラナンデス(仮)』をYouTubeで配信開始。忌憚のないトークと絶妙な掛け合いで、”ヒルマニア”と呼ばれるファンを多く獲得している。そのスピンオフとして立ち上がったのが、2021 年の衆議院選挙への突撃取材企画。きっかけの一つとなったのは、2020年にドキュメンタリー映画としては異例のヒットを記録した大島新監督の『なぜ君は総理大臣になれないのか』(以下、『なぜ君』)だったと話す。

「YouTube番組では主に政治やニュースに関する話題を中心にしていますが、鹿島さんが『なぜ君』をオススメ映画として紹介してくれた回がありました。その後、大島監督と3人で話しながら映画を見るというイベントをしたり、(選挙取材を長年続けている)フリーランスライターの畠山理仁さんが書かれた『コロナ時代の選挙漫遊記』という本を読んだりするなかで、選挙って面白いんだなと。そんなときにちょうど2021 年の10月に衆院選が行われることになったので、実際に現地に行ってみたいと思うようになりました」(ダースレイダー)

激戦の香川1区、大物政治家の“帝国”に潜入し大きな反響

これまでダースレイダーの自宅から配信を続けてきた2人だが、そこから飛び出して向かった先は、『なぜ君』の舞台でもある香川1区。到着したときの様子を興奮気味に振り返る。

「香川1区は、僕たちにとっては聖地巡礼のような場所。そこに『なぜ君』に出ている小川淳也さんや平井卓也さんがいて、大島組も撮影をしていたので、マルチバースというか、物語のなかに自分たちも入ってしまったような不思議な感覚になりました。あとは、番組でもたびたび取り上げてきた四国新聞をコンビニで初めて見たときはテンション上がりましたね(笑)。四国新聞の本社に行ったときも、“帝国”に潜入する感じがたまりませんでした。ある意味、この作品というのは僕たちの冒険譚でもあるわけですよ」(プチ鹿島)

センキョナンデス

『劇場版 センキョナンデス』2023年2月18日より全国順次公開
(C)「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

番組内では、平井氏の不祥事や平井一族がオーナーを務める四国新聞のメディアとしての在り方に対して、プチ鹿島はたびたび苦言を呈してきた。ダースレイダーとのやりとりはもはや“名人芸”とも言えるほどだが、敵地に乗り込むプチ鹿島とダースレイダーの突撃ぶりは、本作でも大きな見どころだ。それらの映像は、配信ライブとして届けられると大きな反響を呼び、手ごたえを感じた2人は、新たな展開を画策することになる。

「配信のときにちゃんと数字も取れることがわかったので、現地で選挙取材をすることはアリだなと思いました。それまではダースさんと僕のトークだけで進めてきましたが、実際の映像も紹介してみたら、それがすごく好評だったんですよ。そこで、2022年の7月の参院選も“現地”に行こうと。ただ、香川1区のときと同じようにヒリヒリする現場を見たいというところで悩みました」(プチ鹿島)

ここで重要となったのは、次に向かうべき場所はどこなのかという問題。さまざまな候補地が並ぶなかで、2人はある地域に狙いを定める。

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選挙の現場から安倍晋三銃撃事件の余波をレポート、そして生まれた使命感…

「全国のいろんなところで参院選が行われていて、どこでも面白いとは思いました。でも、そのなかでも興味を持ったのは大阪。特に、『なぜ大阪では日本維新の会がここまで強いのか』という秘密を知りたかったからです。しかも、ちょうど立憲民主党の菅直人元首相が“闘うリベラル宣言”と称して一人でケンカを売りまくって暴れていたので、ぜひそれも見てみたいなと。鹿島さんが(クリント・イーストウッド監督の)映画『グラン・トリノ』みたいなことになってきたと表現していましたが、それくらい面白そうな気配はありましたね」(ダースレイダー)

ダースレイダー

そんななか、2022年の7月8日に安倍晋三銃撃事件が発生し、事態は急変。本作でも、2人のリアルな反応がそのまま映し出されており、生々しい当時の記憶が蘇る。

「事件のあとすぐ、何が起きたかわからないままホテルの部屋から『ヒルカラナンデス(仮)』の配信をスタートしました。とはいえ、想像以上にひどいことになっていて、僕たちも声を失っている状態。それでも、あえてそのままの様子を配信したんです。憶測しか流れないような状況ではありましたが、それも含めて今日のことは全部映像に撮らなくちゃいけないと感じていました」(プチ鹿島)

そのあたりから、2人は徐々に映画として映像を残す意味について考え始めたと明かす。

「僕たちも間違ったことを言うかもしれないけど、それさえも記録しておくべきだと思いました。そうすることで、今後の自分たちの行動や判断の指針になるだろうと考えたからです。その翌日、移動中の車内で『これは映画になるんじゃないか』と鹿島さんが言ったのをきっかけに映画化について相談するようになりました」(ダースレイダー)

いつしか、2人のなかには使命感のようなものも芽生えていたという。

「あの日は、辻元清美さんと一緒にいましたが、安倍さんが亡くなったという一報を聞いたときの政治家たちがどんな表情をして、どんなことを話していたのかをすべて現場で見聞きしていました。しかも、僕たちはカメラをずっと回していたので、記録映像としてもすごいものが撮れている。これは残していくべきだなと。配信ライブにしてもよかったんですが、2022年の7月8日を忘れないためにも、別の形で発信したいと考えるようになり、その究極の方法が映画にすることでした。将来、コロナ禍のなかで人々がどう考えていたのかを知るアーカイブの1つになればいいなという気持ちもあったと思います」(プチ鹿島)

プチ鹿島

「これは鹿島さんともよく言っていることですが、僕たちにも子どもがいるので、若い世代に対しての思いもありますね。彼らが大人になったとき、『よくわからない病気が世界中で流行ったときに大人たちはどう対応していたのか』ということがきちんとわかる記録があれば、間違いを繰り返すことはないのではないかなと。同じような事態に直面したときに判断できる材料を作ることは、親としての責任でもあると感じています。そういったいろんな理由から映画という形として残したいと考えるようになりました」(ダースレイダー)
(text:志村昌美/photo:泉健也)【日本映画界の問題点を探る[YouTubeから映画界に殴り込み!? 2]1万人動員でもまだ赤字!(2023年2月11日掲載予定)】に続く