前編/圧倒的な存在感! デヴィッド・ボウイ絶頂期の妖しい魅力が炸裂

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『地球に落ちて来た男』
(C)1976 Studiocanal Films Ltd. All rights reserved
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【映画を聴く】『地球に落ちてきた男』前編

ボウイの本格的映画デビュー作が
各地でリバイバル上映中!

デヴィッド・ボウイの1976年の主演作『地球に落ちてきた男』が7月16日より全国で順次公開されている。2016年1月8日、69歳の誕生日に新作『★(Blackstar)』をリリース。そのたった2日後の死は、サブライズに彩られたこの人のキャリアに相応しい、あまりにもよくできた“演出”だったが、世界中のファンの間で当然のように巻き起こった“ボウイ・ロス”は、今も続いている。この『地球に落ちてきた男』の再上映もその一環と言っていいだろう。

『地球に落ちてきた男』は、俳優としてのボウイの本格的なデビュー作(キャリアの初期に実験的なサイレント映画などに出演している)。この映画に出演する以前から、ボウイはアルバム発表のたびにトム少佐、ジギー・スターダスト、アラジン・セイン、ハロウィーン・ジャックといった架空の人物を演じることによって作品世界を作り上げてきた。加えて“宇宙”はボウイの音楽に通底するテーマであり、特にジギー・スターダストは異星からやってきたロック・スターという設定。本作の主人公、トーマス・ジェローム・ニュートンの“超人的な知性を持つ美しい異星人”というキャラクターは、彼にとって出会うべくして出会ったものだったのだと、今回見返して改めて考えさせられた(後に彼はここでのトミーを思わせるシン・ホワイト・デュークという新たなペルソナを作り上げている)。

ミュージシャンが役者として映画に出演することは、今や日本でも世界でも特に珍しいことではない。クリスマス・ソングの定番「ホワイト・クリスマス」で有名なビング・クロスビーが1930年代に歌手として大成功を手に入れた後、映画界に進出。50作以上の映画に出演してマルチ・エンターテイナーという“職種”を確立して以降、数多のスター歌手がこぞって映画に出演するようになったわけだが、ボウイのような人気絶頂のロック・ミュージシャンが本格的なフィクション作品で主演を務めるケースはきわめて稀だ。

前例として思い浮かぶのはエルヴィス・プレスリーの諸作のほか『ジョン・レノンの僕の戦争』(67年)、リンゴ・スターの『マジック・クリスチャン』(69年)、ミック・ジャガーの『パフォーマンス/青春の罠』(70年、本作を監督したニコラス・ローグの監督デビュー作)あたりだが、これらは正直なところ“その人でないと作品が成立しない”といったキャスティングではないし、演技もミュージシャンの余技の域を超えるものでもない。

その点『地球に落ちてきた男』でのボウイのトミー役は、先述のように彼のカテゴライズ不能な妖しい存在感を目一杯生かしたもので、親日家のボウイらしい日本文化の取り入れ方なども反映されていたりする。ニコラス・ローグ監督といえば73年のサスペンス・スリラー『赤い影』が最高傑作とされることが多いが、キャリア絶頂期の姿をとらえた映像作品という意味で、ボウイ亡き今、本作の価値は以前よりも確実に高まっている。(後編「映画の“パーツ”に徹した姿勢〜」に続く…)

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