今年のアカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされた『ある戦争』。この映画の公開初日である10月8日に新宿シネマカリテで、国際NGO「日本国際ボランティアセンター」(以下、JVC)アフガニスタン副代表のサビルラ・メムラワル氏と、1986年にJVCに参加し、現在は代表理事をつとめる谷山博史氏が登場し、トークイベントが行われた。
・[動画]第88回アカデミー賞ノミネート/映画『ある戦争』予告編
本作は『偽りなき者』の脚本家として知られるトビアス・リンホルムが監督&脚本を担当。アフガニスタンに駐留するデンマーク兵が直面する過酷な現実を、リアルな戦場の描写を交えながら描き、現代社会における「正義」の在り方を問いかけるヒューマンドラマの傑作だ。
ソ連侵攻の只中にあるアフガニスタンに生まれ、常に戦争が身近にあったというサビルラ氏。彼は映画を「今なお続くアフガニスタンの現状をよく捉えています」と絶賛し、そこで描かれている現実について言葉を続けた。「映画ではデンマーク軍、つまりは外国軍の兵士が、アフガニスタンの治安を守るために働いているという状況が描かれています。しかし、私には彼らがアフガニスタンの文化、歴史背景をよく理解しているとは思えません」。
「劇中、デンマーク兵がケガをした現地の女の子を助ける場面があります。彼らの行為それ自体は正しかった。だが、彼らはそれがもたらす結果について理解できていませんでした。なぜなら、その行為によって、タリバンはその家族が外国軍と繋がりがあり、スパイ行為をしているのではと疑いを持ったからです。また、主人公は敵の攻撃を受けて空爆の決断を下しますが、戦闘で正しい判断をすることは容易ではありません。その結果、またしても市民の被害に繋がる。この映画は、これこそが戦争の現実、そして外国軍が駐留することの現実だということを描いています。つまり、武力で武力を抑えるという行為自体がいかに失敗しているのかを浮かび上がらせているのです」
サビルラ氏は、幼少期に紛争の影響でアフガニスタン難民としてパキスタンに家族と移住し、15年を過ごした。彼は長い間、帰国したらアフガニスタンの国軍に入ろうと思っていたという。戦争の中で生きてきたから、自分で銃を取ることを当たり前のように考えていたのだ。だが、友人からアフガニスタンの国軍は米軍と協力し合っているからやめたほうがいいと諭され、後に、国軍ではなく、武装勢力として米軍やソ連軍に対抗しようと決意を固める。
そうした中、「偶然に、JVCのアフガニスタン現地代表として現地にいた谷山さんに会ったんです」と同氏は振り返る。「そのまま、2005年に意図せずJVCの活動に参加することになりました。まだ当時は武力を信じていたので、NGOのような平和的アプローチや、谷山さんが話す“対話”の力を信頼していませんでした。ですが、私の考えを変える出来事が起きたんです。米軍が、JVCの診療所を占拠して、勝手に医薬品を住民にばら撒いたのです。その時、谷山さんが“あなたたちは銃を持って国に入り人を殺している。そして、薬を配ることによっても人を殺している”と言った。このJVCの働きかけに米軍は謝罪し、2度と繰り返さないと断言しました。それがきっかけとなって徐々に、武力で解決できないことも対話ならできると思うようになりました。紛争の中に生きてきて、対話や平和活動の力を信じていなかった。そんな自分が変われるのだから、他の人だって変われるはずだと伝えたくて、今の活動を行っています」。
そんなサビルラ氏を平和への道へと導き、アフガニスタンで4年半にわたり医療支援などボランティア活動に従事した経歴を持つ谷山氏もまた、『ある戦争』で描かれるアフガニスタンの状況を肌で感じて知っている。映画について「私がアフガニスタンにいた時に経験した出来事と重なることがたくさん描かれていました。外国軍による誤爆、民間人の殺傷は日常茶飯事に起きている。JVCのアフガニスタン人スタッフも、殺されたり、負傷したりしています」と、簡単に人命が奪われる、紛争地の凄惨な日常を語った。
さらに続け、「決して、被害者はアフガニスタンの市民だけではない。裁判にかけられなくても、民間人を殺した兵士は悩み、苦しむ。彼らも犠牲者なんだとつくづく感じます。出口がない、終わりがない。勝者が存在しない戦争の実態を赤裸々に語っている映画だと思いました」と話した。
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