介護殺人犯と担当検事が取り調べを通じて対峙する映画『ロストケア』
“心優しい青年”と慕われながらも42人もの人間を殺めた連続殺人犯と、その事件を担当する検事が取り調べを通じて対峙し、なぜ彼が大量殺人を犯したのかその真相に迫る社会派エンタテインメント映画『ロストケア』。3月17日、日本福祉大学・美浜キャンパスにて本作を通して介護について学ぶ公開特別授業が行われ、主人公・斯波宗典を演じた松山ケンイチ、斯波を追い詰める検事・大友秀美を演じた長澤まさみと、検察事務官・椎名幸太を演じた鈴鹿央士、前田哲監督、原作者・葉真中顕が登壇した。
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本編を見た学生からは、「私も約4年間在宅介護をしていて、映画内で親子の言い争うシーンとか、私の家庭でも日常的にあったので、この映画は介護者と被介護者の過剰な演出ではなくて、リアルにある家庭の問題を映していると思った」との感想や、「この映画をフィクションだと思ってはいけないと強く感じた。劇中の“見えるものと見えないもの”ではなくて“見たいものと見たくないものがある”というセリフが印象的」と熱のこもった声が上がった。
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学生と同年代の鈴鹿は、「問題提起できる映画にしっかりなっているなと改めて思い、嬉しかったです。僕と同世代の方は、実際に介護をしたことのない方がほとんどだと思うので、この映画で介護について考えるきっかけになってほしい」と述べ、印象的なシーンとして「(劇中で)綾戸智恵さんが演じていた刑務所にいれてほしいと言う高齢者の方も実際にいるというのを聞いて、撮影中不思議な感じがあり印象に残ってます」と語った。
原作者の葉真中は、「私がたまたま介護をしなければいけなくなって、実際に当事者となり、突然やってくると。何も準備をしていない状況で分かったのが介護は色んなレイヤーがあるということなんですよね。日本社会で“格差”と言われるようになった時代で、お金とか家族間の密度とかで同じような状況なのに人と人の間に物凄い格差が生じていた。同じような年代で同じような病気になったのに、天国と地獄のようになってしまい、さらに介護業界の混乱が重なりすごい事になっている事を肌で感じたので、それを小説にしようと思いました」と作品の背景を明かした。
監督は「今でこそヤングケアラーという言葉も言語化されましたけど、それまでは無自覚にそういう状況に陥ってることがあったと思うんですね。映画にどれだけの力があるか未知数ですが、映画を見た人が話題にすることが一つのきっかけになる。ニュースでも見出しで素通りしてた人がその内容を読んでみる、そういう興味を持ってもらうことが社会を変えていく原動力になると思ってます」と想いを明かした。
検事役を演じた長澤は「とっても難しい問題なんですが、斯波がした行為というものは許されるものではないと思いますし、厳しい刑罰を受けることは必要なのかなと思います。だけど、斯波自身は自分がしたことに対してこれは“救い”だと、彼の正義のもとに語っているものなので法的な刑罰というのが、斯波にとってそれが罰として捉えられるのか難しそうに思います。悪いことをしたから罰を与えるということだけではないと感じました」と話した。
父親の介護で追い詰められていく息子の演技をとてもリアルに演じた松山。斯波の役柄について「すごく意識したところがあるんですが、斯波は皆さんと何も変わらない、異常者ではないというのを大事にしました。外側からみていると事件ということだけで見てしまって、誰かに助けを求めれば良いのにと思ってしまうと思うんですけど、そうではない状況が裏側にある。立場によって見てる景色が全く違う。それを防ぐために、誰かと話をしたり介護することを共有する、どういうセイフティーネットがあるのか調べる選択肢を持っておいてほしいと思いますね」と解説。
さらに、「余裕がなければ今目の前にいるお父さんの介護で精一杯になってしまう。周りの人たちが孤立させないことが大切です。皆さんもこれから介護を経験されたり、介護の仕事に携わっていく方もいると思いますが、介護についてたくさんの人と共有していく事で救われる命が増える可能性があると思う。学んだ人だけが見えているものではなくて、たくさんの人が見えていないといけない課題だと思います」と学生に語りかけた。
そして最後に「支援者の立場としてサポートする事があった時には、目の前にいる人達の背景に思いを馳せてほしい。介護者へも支援が必要。そして何よりも大切なのは一人でも多くの人がこの社会問題に関心をもつことが大切」と今回の授業のテーマを学生たちに呼びかけ、公開特別授業が終了した。
『ロストケア』は3月24日より全国公開。
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