【元ネタ比較】『溺れるナイフ』後編
監督の力量不足? 演技力がマイナスに…
思春期の痛いほど鮮烈な恋愛を描き、絶対的な人気を誇るジョージ朝倉原作の少女漫画『溺れるナイフ』が映画化。原作では小学生から始まるこのラブストーリーを、中学生に年齢設定を引き上げて小松菜奈と菅田将暉が演じている。
大人が演じているわけだから、思春期特有の危うさや痛々しい空気はなかなか伝わって来ない。それではこの作品の核となる部分が台無しになる。
監督は青春の焦燥や葛藤を描いたデビュー作『あの娘が海辺で踊ってる』がインディペンデント界で異様に熱く盛り上がって注目された山戸結希だ。手作りのインディーズ映画は自分でコントロールできて力が発揮できても、大掛かりなメジャー級作品となると力が飲まれてしまったんだろうか。鮮烈な青春像は最も得意とするところだと思うのに、悪くはないが凡庸な作品としか感じられなかった。映像にしても、原作ではハッと息を飲むほど幻想的で印象的なシーンも多いが、映画化では水中シーンなど頑張ってはいるものの印象的と言うほどにはいかず、残念。
インディーズ作品の演技者と違って、小松菜奈と菅田将暉がプロの実力ある俳優だったのが、逆にマイナスとなったのかもしれない。中学生役が違和感ありありでヘンにみえることはなく、それなりにサマになっていたから。
山戸監督の“バンドじゃないもん!”の「パヒパヒ」PVのように制服が浮いててイメクラみたいな淫靡さが漂えば、また違った路線の趣向で面白い作品になったかもしれない。それとも、“神聖かまってちゃん”の「ズッ友」のPVみたく菅田将暉がセーラー服着ちゃうとか!? いや、どちらにしてもそんな実験的なことができれば、凡庸に落ち着くこともなかっただろう。
原作の唖然とさせるラストは賛否両論あるが、映画版では余韻を楽しむだけに終わらせてくれたのは良かった。白い衣装に身を包んだ2人がバイクで海沿いを走る画が美しく、本作で一番映画的なシーンと言えるだろう。(文:入江奈々/映画ライター)
『溺れるナイフ』は11月5日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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