愛する人のクローゼットに、アノ人形を見つけたら
【どこまでもダメな人】もしも彼氏や家族がラブドールを隠し持っていたとしたら、あなたはどう感じますか? しかも、本気で愛してしまっていたとしたら。
現代のラブドールはタイプ、材質ともに多種多様に進化しており、さまざまなニーズに対応可能。自分ど真ん中のタイプの女性が10~50万円程度で手に入って、しかも実用的。車なんかよりずっとお手頃。愛好者にしてみれば、かなーりいい商品といえるのではないでしょうか。コミュニケーションは常に一方的ですが……。
・【どこまでもダメな人】気が利かないゾンビのような男~『ショーン・オブ・ザ・デッド』~
そんなシロモノが単身赴任中の夫のクローゼットから見つかった日には、「そうか、ソイツがオマエのど真ん中か。ならソイツと仲良くやってろよ! じゃあな!」と言い放ちたくなります。人形相手にコンプレックスを刺激されるのも屈辱ですし、なぜかこちらが嫉妬している体になってしまうので、さらに腹が立つのです。
ですが、(心の)コミュニケーションのとれない相手に恋心または親しみを持つというのは、実はそんなにめずらしくないのです。
話したこともない女性に謎の妄想をして執着し、あげくにストーカーになるような危険な人とは全く違いますので、そんなに責めないであげましょう。
依存→対話→受容→合体(ゴール)
人形を生きたペットのように連れまわす人、またはぬいぐるみや毛布などが近くにないと安心できない人など、モノに依存する人はめずらしくありません。大雑把に括れば、ラブドール愛好者もその人たちのお仲間といえます。
人は、産まれてから親に無条件に愛され受け容れられ、すっぽりと依存し、安心して成長、羽ばたいていきます(自立)。でも、ありのまま受け容れられた経験がない人は、自分というものがわからず、どこに依存(着地)したらよいかもわからず失敗します。最悪なのが、心は幼児のままなので、「ボクちゃん(あたち)を丸ごと肯定してー」という鉛より重いメッセージを連射しながら全力で向かってくるとき。怖いですね! 本人にとってはナチュラルに直球ですが、他人には意味が分からないので全力で避けてしまうことでしょう。その結果、本人は内に内にと心を閉ざしていきます。またある人は、外面用の自分を用意して人に合わせ、自分を曲げたままヨロヨロと生きていきます。そしてあるとき、何かのきっかけで発見するんですね。
人形(またはそれ以外)があるじゃん! と……。
自我を持たない相手(実は自分自身)に対話を重ね、自分という人間を整理していく過程をたどります。自分はどんな人間なのかを問いては(自分で)答え、ひたすら肯定と否定を繰り返し、アイデンティティの輪郭を探しにいきます。とことんやり切った後は、自身を受け容れいったん終了(自我との合体)となります。そして、依存していたモノは今までの執着が嘘だったかのように不要な物体に。ここまでくると、少しは生きるのがラクになるのかも。(すべての人にこの過程が必要なわけではありません、念のため。依存しっぱなしでもOKと筆者は思います! 動物に過度に依存する場合もありますが、動物が幸せならそれもいいと思います)
ラースの見事な詳細設定にひく
映画『ラースと、その彼女』(2017年)のラースは、ラブドールに本気で恋してしまう、内気な青年。自身の出生にまつわる悲しいトラウマを抱え、ママの手編みのブランケットが手放せません。(この辺からモノに依存するあぶない人の気配……!)
そんな彼が恋人に選んだのは、セクシーな等身大ラブドールなのでした。そんな彼を町の人々は優しく見守り……というストーリー。ぎょっとする題材ながら、終始温かい霧雨に包まれているような、ハートウォーミングな作品に仕上がっています。
ラースはラブドールの詳細を細かく設定することにより、より自分好みの、よりリアルな女性として彼女を愛しました。名前はビアンカ(設定1)。熱帯からやってきた宣教師で(設定2)、ブラジルとデンマークのハーフ(設定3)。看護師の資格を持っている(設定4)。スーツケースが盗まれてしまったため、荷物が無く着の身着のまま(設定5)。
もちろん、実際はネットで選んでポチッてダンボールで配送されて家に来ましたよ! 映画の中でラースも、上で書いた「依存→対話→受容→合体」の過程をたどり、自身を解放、幸せを見つけていきます。家族も町の人も、彼とビアンカを静かに見守ります。映画ではとくに、ばあちゃんたちの器の大きさがすごいです。どんな修羅場をくぐってきたのでしょうか。
みなさんはいかがですか? 受け容れますか? 人形に嫉妬する? 気持ち悪いから捨ててもらうように言う? それとも彼とセットで捨てますか?
私は……。そのときになってみないとわかりませんが、彼氏だったらとりあえず「キモい」は言ってしまうと思います。他人や親戚だったらなんとも思いません。
こんど彼の家に行ったら、こっそりクローゼットを覗いてみませんか? もしかしたらそこには、彼好みのラブドールがちょこんと鎮座しているかも知れません……。(文&イラスト:逸見チエコ/作家・カウンセラー)
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