『聖杯たちの騎士』
クリスチャン・ベイル、ケイト・ブランシェット、そしてナタリー・ポートマン。ヒット作で主演を飾る人気も、アカデミー賞に輝く演技力も持つスターたちがこぞって出演を熱望する監督、それが本作『聖杯たちの騎士』のテレンス・マリックだ。70年代に2本の傑作を発表後に20年間沈黙を守り、『シン・レッド・ライン』(98)で復活、2011年にカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した『ツリー・オブ・ライフ』以降、精力的に新作を発表している。
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長編映画デビュー作の『地獄の逃避行』(73)から本作に至るまで、マリックの作品は美しい自然とその中に生きる人間、彼らの心に去来するものを哲学的、詩的なモノローグで聞かせながら物語を紡いでいく。今回はハリウッドで成功した人気脚本家・リックを主人公に、彼と6人の女性の出会い、父と弟の関係を描いていく。ベイルは『ニュー・ワールド』(05)に続いて2度目のマリック作品出演。酒池肉林のパーティ三昧の日々に耽りながら、虚無を抱え込む主人公像はベイルのシリアスな風貌によくはまる。刹那的な日々で知り合う美女たちとの会話は、ペラペラな表層とは正反対で示唆に満ち、その度に影響されて彼は漂い続ける。
撮影は、前作『トゥ・ザ・ワンダー』(12)に続いてエマニュエル・ルベツキが務める。今年、『レヴェナント:蘇りし者』で3年連続アカデミー賞撮影賞を果たした名手の映像は本作でも端麗だ。荒野や草原、ジャングル、海原など壮大な自然美はこれまでもマリック作品のトレードマークだったが、本作ではハリウッドやラスヴェガスのきらびやかな人工的風景も多い。スタイリッシュな建築とその裏側の猥雑さもとらえる映像は、都会の醜さすら息をのむ美しさだ。
ここで描かれるハリウッドの悪夢的な要素は、来年1月公開のニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ネオン・デーモン』ともよく似ている。独創性を誇る監督2人の新作に登場する、綺麗な仮面の下の禍々しさの描写は面白いほどそっくりで、それが逆に今のハリウッドの閉塞感を表しているようだ。コミュニケーションツールは発達し続け、個人が目にする世界は広がったはずなのに、すべてが画一化されて、むしろ狭くなる一方。内省を続ける男の彷徨を見続けながら、同時にそんなことを考えていた。(文:冨永由紀/映画ライター)
『聖杯たちの騎士』は12月23日より全国公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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