自分が関わった作品内で起きていた性暴力、知ったからには黙っていられない
【日本映画界の問題点を探る/性被害は報道よりもはるかに多い 3】2022年3月に週刊文春が、榊英雄監督から性暴力を受けた女優たちによる告発記事を報じた。NHKの大河ドラマにも出演経験があるなど、俳優としても活躍していた榊監督による、目を疑うようなショッキングな内容は、日本映画界に大きな波紋を呼ぶこととなった。この問題について、当初からインサイダーとして告発してきた映像カメラマン・早坂伸はこう振り返る。
・【日本映画界の問題点を探る/性被害は報道よりもはるかに多い 1】濡れ場への挑戦が名女優への第一歩?
・【日本映画界の問題点を探る/性被害は報道よりもはるかに多い 2】性暴力問題を告発し続ける孤高の男
「実は以前から、榊監督に関しては『女癖が悪いらしいけど大丈夫?』といった噂は聞いてはいました。ただ、僕に対しては紳士的だったので、噂が本当かどうかの判断が難しく、当時は『噂で人を判断するのはやめよう』という考え方でした。けれどある日、一緒に仕事をしたことがある女優・石川優実さんのブログを目にしました。そこで初めて、自分が撮影した作品で、榊監督が出演者たちに性暴力を行っていたことを知り、僕の立ち位置は決まりました。週刊文春の記事が掲載された直後に公開予定だった『蜜月』のプロデューサー陣にも、石川さんのブログを知らせましたが、誰も反応しなかったので、自分のSNSでもシェアしたところそれが広がっていった感じです」
早坂が一連の行動を起こした背景には、いくつかの理由がある。
「最初に聞いたときに『噂だから…』と受け流したことが、結果的に被害を拡大させてしまったのではないかと反省しています。そういったこともあり、それ以降は『火のない所に煙は立たない』という判断基準に改めました。いま自分が声を上げているものは、直接の知り合いが被害を受けている場合のみにしています。そして、なぜ榊監督に対してだけほかの方よりも厳しく発言しているのかというと、被害者たちから話を聞くと、手口や内容が完全なるレイプであり、僕からすると彼は性犯罪者だからです。このまま野放しにしていると、また被害者が出てしまう危険性を強く感じています」
現在、早坂のもとにはたくさんの相談が寄せられており、実際の被害者数は報道されているよりはるかに多いと明かす。
ところで、なぜもっと早く被害に気づかなかったのかと疑問に思う読者もいるはずだが、加害行為が行われていたのは撮影現場ではなく、撮影の前後の期間だったからのようだ。なぜなら、通常の現場はスケジュールがハードすぎて監督自身にもそんな余裕はないという。
「基本的に撮影現場は寝る暇もないくらいキツいスケジュールで進んでいるので、おそらく現場では行われていなかったように思います。被害者の方々によると、映画に出してあげるとチラつかせたうえでワークショップに誘ったり、打ち合わせと称して呼び出し、暴力を振るって加害行為に及んでいたようです」
とはいえ、気づくことができなかったことへの責任は感じていると話す早坂。それが、情報発信へと結びついているのだろう。
・生身で挑む俳優の安全を考えると「予算が厳しいから前貼りはやめます」とは言えない
告発によって敵と味方が鮮明に 余計なことを言う奴は仕事から外す空気も…
また、榊監督について当初は「個人レベルでは問題なかった」と話していた早坂だが、仕事を続けるなかで榊監督への不信感が募っていったと明かす。そして、『蜜月』と『ハザードランプ』の撮影後は、二度と一緒に仕事をしないと決めていたという。
「現場での振る舞い方も経済的な面でも、全員が搾取されているような状況になっていたので、みんなの前で『榊組は今回で最後です』と宣言しました。というのも、事前に『最低これくらいの金額はないと出来ません』と伝えていたにもかかわらず、撮影開始の数日前まで何の連絡もない。直前になってようやく連絡が来たと思ったら、伝えていた金額よりもかなり安い金額でお願いしたいと言われました。こちらは準備を進めていましたし、断れない段階まできていたので僕のギャラはまったくない状況でしたが対応することに。こういったことが1回ならまだしも常習的に行われていたんです。しかも、製作費の運用についても倫理に反する部分を感じました。そういったことがどんどんひどくなっていったので、『もうやりません』と伝えました」
発信を始めるようになってから、仕事だけでなく交友関係にも影響が出ているというが、いまでは敵と味方がよくわかるようになったとも話す。
「身の危険を感じるほどのことはありませんが、『余計なことを言うヤツはやめておこう(起用しないでおこう)』というような感じで、カメラマン候補から外されているようなところはあると思います。ときには、『楽しそうだね』とか『正義を振りかざしている』などと言ってくるような人もいるくらいですから。すねに傷があるような人は近づいてはきませんが、この状況でも一緒に仕事をしたいと言ってくださる方も多いので、今後もそういう方々と仕事をしていきたいなと。いまは劣勢かもしれませんが、長い目で見れば、こちらがマジョリティにならないとおかしな話だと思っています。表立って応援してくれる人は少なくても、女性や若い方からは支持していただいていますし、『(こういった活動については)被害の当事者や女性ではなく男性が発言することが大事なんだよ』とたくさん声をかけていただきました。正直に言うとひよってしまうときもありますが、仕事が減ることも覚悟したうえでの行動なので、これからも業界内部にいる“インサイダー”として何かの役に立ちたいです」(text:志村昌美)
・【4 性被害は報道よりもはるかに多い/被害者は女性だけとは限らない】に続く(2023年5月1日掲載予定)
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