被害者は女性だけとは限らない とある作品を巡り、監督と配給会社が謝罪の過去も
権力者にとって「金と女が一緒に手に入る場所」と
【日本映画界の問題点を探る/性被害は報道よりもはるかに多い 4】映像カメラマンとして『惡の華』や『架空OL日記』などこれまでに数々の話題作を手掛けてきた早坂伸。彼は、2022年に映画監督の榊英雄による性暴力が明らかになった当初からこの問題について告発、発信を続けている。
ここ1年の間、早坂のもとには業界内外からさまざまな情報が集まってきているが、特に問題視しているのがワークショップ。とはいえ、ほとんどのワークショップは何ら問題なく、実力向上の場として機能している。しかしごくわずではあるものの、一部のワークショップに問題があることは否定できない。実際、被害者の多くが“とあるワークショップ”に参加したことがきっかけで性暴力を受けたと早坂に相談を寄せているのだという。
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「僕たちも作品ごとにワークショップをすることがあるので、すべてが悪いとは言いませんし、全員が加害者、被害者というわけではありません。ただ、そのなかでも被害を受けた場所として、一部のワークショップの名前が挙がっているのが現状です」
そこでは榊英雄監督や園子温監督らのワークショップも開催されていて、問題の温床となっていたと早坂は語る。
「主催者にとってワークショップは『金と女が一緒に手に入る場所』になっていたのだと思います。特に、事務所にも入っていず、業界のことをよく知らない女性たちが被害に遭うことが多いように感じました。こんな不健全なワークショップはすぐにでも潰さなければだめです。僕は、問題のあるワークショップに関しては、今後も厳しく追及したいと考えています」
映画界が抱える性被害の問題は、ここまで挙げてきたものだけではない。そのほかの実例として早坂が挙げたのは、一方的に出演女優に想いを寄せてストーカーのようになってしまった監督、助手に付く女性を毎回好きになっては言い寄る先輩カメラマンなど。さらに最近では、映画や演劇界の性被害を無くすために活動していたはずの馬奈木厳太郎弁護士が依頼人の女性にセクハラをしていたという信じがたい報道もあった。仕事がきっかけで恋愛へと発展することは、昔からよくある話ではある。しかし、優位的な立場を利用して相手に危害を加えるようなことは許されるべきではない。
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監督らによる性行為強要で深く傷ついた男性「公開すべきではない」の声も届かず
そして、この問題を語るうえで早坂が重要だと考えているのが『童貞。をプロデュース』を巡る一連の騒動。本作は、異性とうまくコミュニケーションが取れない青年2人が童貞を卒業するまでを映し出したドキュメンタリーで、2007年の公開当時から大きな反響を呼んだ。ところが、2017年に行われた公開10周年記念の舞台挨拶では、出演者が撮影時に松江哲明監督から性行為の強要があったと観客の前で告発。性被害への認識が高まりつつあった時代の空気感も後押しとなり、強引に撮影を進めていた事実を監督と配給会社が認め、ようやく謝罪した。
「出演者であった加賀賢三さんはいま映画監督をしていますが、当初から『これは性加害であって公開すべきではない』とずっと言い続けてきました。にもかかわらず、映画は毎年上映され、結果的に彼は10年以上も心を傷つけられ続けてしまったのです。僕は彼のことを最初から支持していましたが、業界関係者の大半は無視。それどころか男性社会では『むしろよかったじゃん』という声も多く、男性の性被害は矮小化されがちだと感じました。でも、ここでようやく立場が逆転したのは大きいと思います」
女性に限らず、男性でも性暴力の被害について声を上げることはまだまだ難しいのが現実だが、この出来事からは「映画のためなら何をしてもいいのか」という問いも同時に突き付けられる。
「こういった問題が起きてから、『作品とは切り離して考えるべき』といった意見も上がっていますが、僕は切り離してはいけないと思っています。そして、マスコミや映画評論家こそが、そういったことをもっと指摘すべきではないでしょうか。たとえ当時は当たり前のことだったとしても、今、謝るべきところがあるならば謝るべきです。それを、反省もせずにパワープレイでもみ消そうとするからいけないんだと思います」
ごくごく一部だが問題のあるワークショップも。参加前に主催者や講師をよく調べてほしい
最後に、早坂からいま悩みを抱えている人やこれから映画界を目指している人たちに向けて伝えたいことを聞いた。
「最近はいろんな相談窓口もできましたし、専門家の方も増えたので、まずはご自身の悩みに合った窓口を選んで相談してもらうのがいいと思います。僕も含めてですが、話を聞いてくれる人は必ずいますから。僕は砂漠のなかにオアシスを作ろうという思いでやってきて、まだまだ難しいところはあります。でも、これからも被害者の代弁者でい続けたいと考えています。それから、もしワークショップなどに参加するのであれば、主催者や講師がどういう人なのかを事前にきちんと調べるようにしてください。というのも、先日、榊監督がワークショップを再開したところ、女性の参加者がいたと聞いて衝撃を受けました。まだこの問題を知らない人がいるのであれば、僕ももっと情報発信すべきなのかなと感じています。ただ、いまはネットなどで検索するだけでもある程度のことはわかると思うので、被害に遭わないためにご自身でも問題意識を持つようにしていただきたいです」
週刊文春の報道から1年、改善された事柄も多かったとは思う。しかし、このままなし崩し的に収束へと向かってしまう事態にはなってほしくない。実態が明らかになったら終わりではなく、むしろここからが始まり。被害者たちと今後どう向き合い、二次加害への対策やこれ以上被害者を生み出さないために業界としてできることは何かについて真摯に向き合う姿勢が問われている。立場や性別を問わず、誰もが安心してよりよい環境で映画作りに取り組めるようになれば、衰退しつつある日本映画界もかつての活気を取り戻せるはずだ。(text:志村昌美)
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