YMOの最後をとらえた映画『プロパガンダ』
【YMOと映画音楽】その1:メンバー3人が関わった映画
今回から5回にわたって、【YMOと映画音楽】というテーマで細野晴臣・高橋幸宏・坂本龍一の各メンバーが関わった映画について紹介していきたい。第1回の本稿では、メンバー3人が共同で音楽に関わった映画について振り返る。
と言っても、YMOの3人が共同で関わった映画というのはそれほど多くない。まず思い出されるのが、1984年5月公開の映画『プロパガンダ(A Y.M.O. FILM PROPAGANDA)』である。これは1983年12月に行われたYMOの“散開”コンサートを映画仕立てにまとめた作品なので「メンバー3人がYMOとして楽曲を提供した映画」という趣旨からは少々ズレてしまうが、映画用として「PROPAGANDA」「M16」の未発表2曲が提供されているし、YMOが映画というメディアに最もダイレクトに、分かりやすく接近した作品なので無視することはできない。
議事堂を思わせる重厚なセットに、ナチス時代のドイツ軍旗を模した赤い旗が掲揚されたステージング。左腕に赤い腕章をあしらった軍服のようなコスチュームを着たメンバー3人は、「YMO」というエンブレムのついた演説台に立ち、演奏する。この時代のYMOだから「けしからん!」ではなく「カッコいい!」と許されたセンス。そう考えていいだろう。
YMOの散開コンサートは「1983 YMO JAPAN TOUR」と銘打って全国6都市9公演が行われたが、映画ではこのうち1983年12月12日と13日の日本武道館でのパフォーマンスが使用されている。メンバーや役者による寸劇が追加で撮影されたほか、ステージが炎上し朽ち果てるラストシーンは千葉県の平砂浦の海岸にコンサートと同様のセットが組まれ、撮影されている。
2023年5月現在、DVDなどのパッケージ・メディアは軒並み廃盤。中古市場でも価格が高騰しており、残念ながら映画本編を容易に見ることはできない状況になっているものの、散開コンサートの模様は『AFTER SERVICE』として1984年に音源化され、現在でもCDやサブスクで聴くことができる。キャリアを総括した選曲なので、これからYMOを聴いてみようという世代の方にとっても好適だ。さらに掘り下げたい人は、先述の1983年12月12日と13日の公演を完全収録した1992年リリースの拡張版『COMPLETE SERVICE』のCDを探してみるのもいいだろう。
2000年代の再始動、HASYMO名義による映画音楽
1983年の“散開”から10年後の一時的な“再生”を挟み、2002年頃からYMOの3人は再び共同作業を活発化。高橋幸宏と細野晴臣が新たに結成したユニット、SKETCH SHOWのアルバム『AUDIO SPONGE』に坂本龍一が参加したことから、SKETCH SHOWはHuman Audio Sponge(HAS)という3人組に発展。2007年にはYellow Magic Orchestra名義でCMソング「RYDEEN 79/07」を録音している。
その「RYDEEN 79/07」のカップリング曲で、HASYMO名義(HASとYMOを組み合わせた名前で「ハシモ」と読む)による新曲「RESCUE」は、士郎正宗原作/荒牧伸志監督のアニメーション映画『EX MACHINA -エクスマキナ-』のメインテーマとして書き下ろされたもので、これがYMOの3人による事実上最初の「クライアント仕事としての映画音楽」ということになるだろうか。サウンドトラックの音楽監修は細野晴臣が単独で担当しているが、HASYMO名義でも「METHOD」と「WEATHER」の2曲が書き下ろされているのが嬉しい。いずれも当時の3人が傾倒していたエレクトロニカ色の強い楽曲で、一聴の価値ありだ。
また、HASYMO名義でリリースされた2008年8月の両A面シングル「The City of Light/Tokyo Town Pages」のうち、「Tokyo Town Pages」は、ミシェル・ゴンドリー/レオス・カラックス/ポン・ジュノの共同監督による映画『TOKYO!』の主題歌として起用されている。この楽曲ではシンセサイザーが一切使用されず、3人の生演奏だけで構成されており、演奏家としても超一流の3人がかつてテクノポップで一世を風靡していたという事実に改めて驚かさせる楽曲である。
メンバー3人のうち、2人までを失ってしまった2023年。高橋幸宏が亡くなって4ヵ月、坂本龍一が亡くなって1ヵ月半が過ぎようとしているが、各種メディアやSNSでは今も2人を追悼するコンテンツが後を絶たない。この記事も、そんな中のひとつでしかないが、YMOやメンバー3人の音楽をこれから聴いてみようという人のガイドに役立てていただければ、ずっと3人を追いかけてきた者として嬉しく思う。(伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
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