愚問の記者は徹底的に論破! 何考えているか分からないあの人が理解できる作品とは?

#映画を聴く

『ドント・ルック・バック』
(C)2016Pennebaker Hegedus films.Inc
『ドント・ルック・バック』
(C)2016Pennebaker Hegedus films.Inc

…前編「♪ダンダダダダン ダダンダダダン〜を憶えている40代以上男性のツボを刺激!」より続く

【映画を聴く・番外編】公開中のオススメ映画/後編

●『光をくれた人』(5月26日公開)

公開延期となっていたM・L・ステッドマン原作のドラマが、いよいよ登場。親を亡くした子を自分たちの子として育てることを決めたカップルの心の葛藤を描く。監督は『ブルーバレンタイン』の監督であるデレク・シアンフランス。マイケル・ファスベンダーとアリシア・ヴィキャンデルがそのカップルを演じる。音楽を担当するのは、アレクサンドル・デスプラというフランスの作曲家。『英国王のスピーチ』や『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』『同 PART2』をはじめ、『リリーのすべて』『誰のせいでもない』『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』『ペット』など、話題作を立て続けに手がける職人で、作品に求められるスコアを手堅く形にする能力を本作でもフルに発揮している。

「生きることはすばらしい!」人生を肯定するJロック・スタンダードの魂に感動!

●『ドント・ルック・バック』(5月27日公開)

曲に合わせて歌詞の書かれた画用紙を次々に投げ捨てていく映像があまりにも有名な「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」で幕を開ける、音楽ドキュメンタリーの傑作がデジタル・リマスター版で劇場公開。フォーク・シンガーからエレクトリック・バンドを従えたスーパースターへと変わっていく1965年のボブ・ディランの姿を記録している。ギターを弾いているのと同じぐらいタイプライターで歌詞を綴っている時間が多く、歌詞についてくだらない質問をする記者は徹底的に論破する。とにかくトンガりまくっている20代前半のディランだが、その何を考えているのか全然わからない感じは、昨年の“ノーベル賞を受賞するのかしないのか問題”まで基本的に変わっていない。そのことを改めて理解できる作品である。

●『SHIDAMYOJIN』(5月27日公開)

かつてパンク・バンド、ザ・スターリンのフロントマンとしてセンセーショナルな活動を展開した遠藤ミチロウが、故郷の福島で盆踊りに開眼。“民謡パンク”という新たなスタイルを得て、変わらずアジテーションし続ける姿をとらえたドキュメンタリー作品だ。SHIDAMYOJINというバンドの名前は、東日本大震災で大きな原発被害を受けたいわき市志田名地区に由来しており、ミチロウがバンド活動によってこの地で長く途絶えていた祭りを復活させるまでが丹念に記録されている。2015年の『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』に続く監督第2弾作品だが、ステージでの攻撃性と普段の知的でチャーミングな人柄のコントラストは本作でも印象的。こんな66歳がいることに、ファンでなくとも驚かされるに違いない。(文:伊藤隆剛/ライター)

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。