【YMOと映画音楽】『戦メリ』『ラストエンペラー』の次に聴きたい坂本龍一の映画音楽8選(後編)/『レヴェナント』ほか

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【YMOと映画音楽】坂本龍一
【YMOと映画音楽】その4(画像は筆者の私物、筆者撮影)
【YMOと映画音楽】坂本龍一
坂本龍一
坂本龍一
『RYUICHI SAKAMOTO ーMUSIC FOR FILM』(左)と『TRAVESIA  RYUICHI SAKAMOTO CURATED BY INARRITU』(右)のCD。(画像は筆者の私物、筆者撮影)

【YMOと映画音楽】その4:坂本龍一(後編)

(前編)の続き。
【YMOと映画音楽】『戦メリ』『ラストエンペラー』の坂本龍一の映画音楽8選(前編)/『愛の悪魔』ほか

『レヴェナント』『怒り』など、シリアスな人間ドラマが中心に

⑤新しい靴を買わなくちゃ(2012年)

どうせ2010年代の日本映画を挙げるなら山田洋次監督の『母と暮せば』では? という声が聞こえてきそうだが、北川悦吏子監督・脚本による本作の音楽も聴きどころが多い。ここでの坂本龍一は、弟子筋のコトリンゴと共同で音楽を担当。ブラジルのシンガー・ソングライターで坂本とは90年代から交流のあるヴィニシウス・カントゥアリアも書き下ろしを1曲提供している。坂本が担当した6曲のうちオリジナルは4曲で、残り2曲はモーツァルトのメヌエット。坂本がモーツァルトを弾いているという意外性も含めて、新鮮に楽しめるサウンドトラックだ。コトリンゴは2016年に『この世界の片隅に』の音楽を担当して大きな注目を集めた。

⑥レヴェナント:蘇りし者(2015年)

坂本龍一の手がけた映画音楽で、『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』と並ぶ重要作がアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督/レオナルド・ディカプリオ主演による本作だ。極限まで削ぎ落とされた楽音が、静かな呼吸に近いタイム感で起伏する「The Revenant Main Theme」の凄み。気心の知れた音楽的パートナーであるアルヴァ・ノトの貢献も大きい。ちなみにイニャリトゥ監督は、彼が選曲を手がけた坂本のコンピレーション・アルバム『TRAVESIA RYUICHI SAKAMOTO CURATED BY INARRITU』を先日リリースしたばかり。長年の坂本ファンらしい、裏ベスト的な選曲が冴えている。

坂本龍一

北川悦吏子監督『新しい靴を買わなくちゃ』(左)とアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督『レヴェナント:蘇りし者』(右)のサウンドトラックCD。(画像は筆者の私物、筆者撮影)

 

⑦怒り(2016年)

吉田修一原作/李相日監督の本作も重要な作品だ。坂本のピアノは2000年代の『トニー滝谷』や『シルク』とは印象がまるで異なる。音色は柔らかくなり、タッチの重心が低くなり、テンポ感はグッとスローに。2020年のオンライン・コンサートを収録した『Ryuichi Sakamoto:Playing the Piano 12122020』にて、坂本のピアノは枯山水の境地に到達しているが、本作ではそこへ至る一歩手前の音を聴くことができる。ピアノだけでなく、シンセサイザーによる持続音やノイズを使った楽曲、クロアチア出身チェロ奏者によるデュオ・2CELLOSをフィーチャーした主題曲「M21 – 許し forgiveness」など、坂本龍一の映画音楽の多彩な旨みを凝縮した聴き応えのあるサウンドトラックだ。

⑧MINAMATA ーミナマター(2021年)

ジョニー・デップが写真家のユージン・スミスを演じた、アンドリュー・レヴィタス監督によるドラマ。日本の化学会社・チッソの引き起こした産業公害、水銀中毒の闇を追った実話である。「Minamata Piano Theme」は2分ほどの小曲だが、2000年代以降の坂本龍一が書いた映画のテーマ曲の中ではとりわけメロディの輪郭がくっきりしている。作品の性質上、サウンドトラックはダークかつシリアスな楽曲で占められているものの、のちにスミスの代表作となる「入浴する智子と母」の撮影シーンで流れる「Mother and Child」は、曇天に差す一筋の光のような神々しさと希望が感じられ、異彩を放っている。

坂本龍一

李相日監督『怒り』(左)とアンドリュー・レヴィタス監督『MINAMATA ーミナマター』(右)のサウンドトラックCD。(画像は筆者の私物、筆者撮影)

 

ほかにも様々な作品集、編集盤がリリースされている

坂本龍一関連の作品ではほかにも、『RYUICHI SAKAMOTO ーMUSIC FOR FILM』という映画音楽集がある。ディルク・ブロッセ指揮/ブリュッセル・フィルハーモニック・オーケストラ演奏で、「Merry Christmas Mr. Lawrence」から「The Revenant Main Theme」まで、坂本の代表的な映画音楽13曲が収録されているのだが、オリジナルに比べるとワイルドで力強さが際立つ演奏に仕上がっている。そして『レヴェナント:蘇りし者』のくだりでも触れた『TRAVESIA RYUICHI SAKAMOTO CURATED BY INARRITU』。こちらは主に坂本の純粋なソロ作品から選ばれた編集盤で、映画監督が選曲を担当した非映画音楽集というのが面白い。映画音楽だけでなく、坂本龍一のソロ・キャリアも腰を据えて聴いてみたい方は、その取っかかりとして聴いてみてはいかがだろう。

坂本龍一

『RYUICHI SAKAMOTO ーMUSIC FOR FILM』(左)と『TRAVESIA RYUICHI SAKAMOTO CURATED BY INARRITU』(右)のCD。(画像は筆者の私物、筆者撮影)

残念ながら坂本龍一にとって最後の映画音楽となった是枝裕和監督の『怪物』。映画が公開される6月2日に数日先立ち、サウンドトラックもリリースされる。こちらについてはまた映画公開のタイミングで改めてご紹介したい。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)