是枝裕和監督、カンヌ国際映画祭脚本賞受賞への思い語る ロケ地を諏訪湖にした理由も明かす
脚本家・坂元裕二「たった1人の孤独な人のために書きました」
是枝裕和監督、脚本・坂元裕二、音楽・坂本龍一による映画『怪物』。第76回カンヌ国際映画祭にて公式上映された本作が脚本賞を受賞。授賞式後、是枝監督が日本メディア向けの囲み取材を受けた。
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──この脚本のどこが評価されたかというのをお答えいただけますか?
是枝監督:最初にいただいたプロットからこの三部構成の形でした。読み進めても読み進めても、一体何が起きているのかわからない、という本がとてもわくわくしました。これをどういう風に映像にしていくんだろうというのを、演出を任される前提でプロットを読ませていただいて、相当チャレンジをしている、方法論的にも、題材的にもかなり攻めてるなと感じたので、これはちゃんと色んなものと向き合ってちゃんと勝負しようという風に考えました。それぐらいやっぱり自分には書けない本でしたし、ストーリーテリングというものがとても無駄がなくて、とても面白かったと僕は思いました。カンヌがどう評価したかはわかりません。
──脚本家の坂元さんと何かお話をされたりしましたか?
是枝監督:いや、メールだけなんですけどね。多分、起きてすぐ「怪物チームの1人としてうれしいです、感謝です」というのが来て、僕から「坂元さん、簡単なコメントいただけたら嬉しいです。簡単じゃなくてもいいです」と送ったら、「えっ、今?」と。だから、「もう少ししたら囲みがあるので」と、これを前提にお願いしたら、すぐにきて、「たった1人の孤独な人のために書きました。それが評価されて感無量です」と。そのあとまた寝たかもしれませんね(笑)。
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──監督も誰か1人を想定して映画を作っているんですか?
是枝監督:必ずそうですね。今回はそのことについて僕と坂元さんで、これは誰に向かって書いたとかみたいなやりとりとかは一切してないんです。完成披露試写会の舞台挨拶で初めて坂元さんが子どもの時に出会った男の子のことを書きましたという話が出て、「そうだったんだ」と驚きだったんですけど、僕は僕であまり特定はしたくないんですけど、1人の男の子のためにこれは作ろうと思いました。
──改めてカンヌ映画祭の魅力だったり、映画人としてのこれからにつながる経験を振り返られてどうでした?
是枝監督:こんなに長くいたのはじめてなんです。オープニングだったので、ほぼ2週間丸まる滞在をして、こんなに自分以外の作品をみたのも初めてですね。それはやっぱりたぶん世代が近い方はお分かりだと思うんですけれど、エリセとヴェンダースの新作があるということは、もうねえ…ちょっと特別なんです。そこに自分の作品があることが誇らしいというよりは、彼らの新作を真っ先に見られる環境に自分がいるということを感謝するって感じですね。そしてそこに今年は武さんもいらっしゃっていて。
──ロケ地を諏訪湖にした理由を教えてください。
是枝監督:ネガティブなことを言いたくないのですが、本当は西東京の話で坂元さんが書かれていて、町の中を一本の大きな川がながれているという。その前提で一度ロケハンにいきましたが、東京が撮影には非協力的なんです。消防車を走らせないということがあって。
長野県、特に諏訪地方は、非常に撮影に協力的なフィルムコミッションがあって、去年だけで3、4本くらい撮っているんじゃないですかね? 川ではないのだけどどうだろうかと提案してくれた制作部のスタッフがいまして、それで坂元さんも一緒に見に行きました。町をずっと見て回って、ここで書けますか?という話をして、大丈夫ですということで湖で書き直してもらいました。
──坂元さんともう一度組んでやりたいことはありますか?
是枝監督:僕はありますね。坂元さんがどう思っているかは今度聞いてみます。ただ、とても良いバランスで脚本と演出のタッグを組めたんじゃないかな。お互いの良いところを引き出せたっていうとちょっと自分でほめ過ぎな気もしますけど、相性は良かったと思います。
──役所さんと何かお話をされましたか?
是枝監督:本当に嬉しいですよね、役所広司さんが…。もっと早く獲ってても良かった、絶対に。もっと世界的な評価があっていい役者さんだと思っていました。それが、ここでこういう形で結実してとても良かったと思います。
なんだろうな、ずっと一緒に、日本映画界をどうしていくみたいな話も。とても応援していただいて、会うと大体、本当は次の作品の話がしたいんですけど、「どうなってる?」って心配して声をかけていただいて、少しでも若い役者、若いスタッフがどうやってこの後、日本の映画界でちゃんと映画が撮れるようになるのかというのを気にかけていただいているので、そんな話を裏でして、写真を撮って、西川美和に送りました(笑)。喜んでました。
また、本作は脚本賞の受賞に先立ち、主要部門の授賞式前に発表される独立賞の「クィア・パルム賞」も受賞した。同賞は2010年に創設された独立賞のひとつで、LGBTやクィアを扱った映画に与えられる。日本映画としては初の受賞となる。
クィア・パルム賞の授与にあたり、審査員長のジョン・キャメロン・ミッチェルは、「1本を選ぶのは大変な作業でしたが、ある作品が満場一致で選ばれました。その物語の中心にいるのは、他の子どもたちと同じように振る舞うことができず、またそうしようともしない、とても繊細で、驚くほど強い2人の少年です。世間の期待に適合できない2人の少年が織りなす、この美しく構成された物語は、クィアの人々、馴染むことができない人々、あるいは世界に拒まれている全ての人々に力強い慰めを与え、そしてこの映画は命を救うことになるでしょう。登場人物のあらゆる面を、繊細な詩、深い思いやり、そして見事な技術で表現した是枝裕和監督の『怪物』に、私たち審査員は満場一致でクィア・パルム賞を授与します」と述べた。
映画『怪物』は6月2日より全国公開。
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