是枝監督とのタッグで快挙、近年も『花束みたいな恋をした』が大ヒット
【この脚本家に注目】5月に開催された第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した『怪物』。是枝裕和監督が劇映画デビュー作の『幻の光』(95年)以来初めて、脚本執筆を託した他者は、是枝が「誰かと組むのであれば」と聞かれるたびに即答してきた脚本家の坂元裕二だ。
・役所広司、カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞に輝く! 『怪物』坂元裕二は最優秀脚本賞受賞
坂元といえば、近年は『カルテット』(17年)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(21年)などのドラマ、映画『花束みたいな恋をした』(21年)など、多くのヒット作を手がけている。
23歳で『東京ラブストーリー』を執筆、『Mother』なども高評価
1967年、大阪府に生まれた坂元は高校卒業後にアルバイトをしながら脚本を学び、19歳だった1987年、第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞してデビュー。1991年の「月9」の大ヒット作『東京ラブストーリー』を執筆したのは23歳の若さだった。1996年に原案、脚本も手がけた映画『ユーリ』で監督も務めたが、同年に休業を宣言し、ゲーム関連の仕事や未完に終わった小説執筆などの期間を経て、2002年から脚本執筆を再開。ドラマや映画でオリジナル、脚色を問わず、多岐にわたるジャンルで名作を世に送り続けている。
実はオリジナル脚本の評価は海外でも高く、『Mother』(10年)や『Woman』(13年)はトルコ、フランス、韓国などでリメイクされ、特にトルコ版の『Anne(原題)』は世界30数カ国で放送されており、その作風は国を問わず伝わるものがあるのだろう。1998年にはジャン・ピエール・リモザン監督、武田真治と吉川ひなの主演の日仏合作映画『Tokyo Eyes』の日本語のセリフも担当した。
ある後悔が『怪物』の着眼点に
カンヌでの受賞に話を戻すと、坂元は映画祭序盤の公式上映に参加後、すでに帰国していた。現地での代理受賞を報告した是枝に、坂元は「たった1人の孤独な人のために書きました。それが評価されて感無量です」と返信したという。
帰国した是枝と2人で臨んだ凱旋記者会見で坂元は、それは特定の誰かを指すのではなく、「どこかにいるであろう、孤独に過ごしている誰かのために書きました」と明確にすると同時に、着想の原点となった以前の経験について明かした。
車の運転中、赤信号で停車していた前のトラックが青信号になっても動かず、坂元はクラクションを鳴らしたという。それでも停まったままだったトラックが動き出した後に横断歩道を見ると、「車椅子の方がいらしたんです。そのトラックは車椅子の方が渡りきるのを待っていたのですが、私にはそれが見えなかったんです」。
自らの行為を後悔しているという坂元は「世の中には普段生活していて見えないことがある。私自身、自分が被害者だと思うことにとても敏感ですが、自分が加害者だと気づくことはとても難しい。どうすれば、加害者が被害者に対してしていることに気づくことができるのだろうかと、この10年あまり考え続けてきて、描き方の1つとしてこの方法を選びました」と『怪物』について語った。
「自分を好きになれない誰かへのエールに」
「怪物、だーれだ」というコピーからも、つい犯人探しのような気持ちをかき立てられるが、『万引き家族』(18年)や『ベイビー・ブローカー』(22年)の監督と、『Mother』や『それでも、生きてゆく』(11年)、『anone』(18年)などの脚本家が組んだ物語は、簡単に物事の白黒がつく世界を描かない。
怪物とは、そもそも画面に映っているのだろうか。スクリーンを見ている人々がいる空間まで広げると、その形がうっすら見えてくるような、当事者とは何かを問われているような、そんな気がしてくる。製作発表時、坂元は「自分を好きになれない誰かへのエールになるといいなと思っています」とコメントしている。
先述の凱旋記者会見では、真摯であると同時に巧まずして笑みを誘う坂元のチャーミングな人柄が垣間見えた。今後はミステリー&ロマンティックコメディ『クレイジークルーズ』(Netflixで配信予定)、2024年は、『花束みたいな恋をした』の土井監督と組み、広瀬すず、杉咲花、清原果耶が主演の『片思い世界』の公開が控える。カンヌ受賞を果たしたその先もまた、楽しみだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『怪物』は、2023年6月2日より全国公開中。
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