「今もナチスのような動きがあちこちで生まれている」ナチ政権下で迫害された同性愛者たちを描く『刑法175条』トークイベント
1999年制作のドキュメンタリー『刑法175条』が限定上映
2021年カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞、2022年アカデミー賞国際⻑編映画賞ショートリスト選出作品『大いなる自由』が公開中。本作の公開を記念し、ナチ政権下で迫害された同性愛者たちを描くドキュメンタリー『刑法175条』(99年)が限定上映され、作家の北丸雄二、主にクィアの作家による作品の上映・発信を行うノーマルスクリーンの秋田祥によるトークイベントが開催された。
・処刑者は14万人…男性同性愛を禁ずる「刑法175条」のもと、愛する自由を求め続けた男の闘いとは?
トークイベントでは、20数年前、NYのゲイ&レズビアン映画祭で『刑法175条』を初めて見たという北丸が本作を再見し、「当時と印象が違った。この映画が撮られた1995年から2000年、そして今。色々な時代のことを考えなくてはいけない。取材当時の90年代はホロコーストでゲイがこんな迫害されていたことを人々は知らないんですよね。ホロコーストの生き残りの人たちが存命で、語れる最後のチャンスに作られ、そして2023年にこれがこうして上映されて、こんなにたくさんの方が来場している。今この時代だからこそなおさら見てほしいし、TVとかで放送してほしい」と語った。
また、北丸は劇中、ヒトラーの台頭でクィアの人々が集まったクラブが閉鎖されたエピソードにも言及し、「トランプ就任翌日にホワイトハウスのホームページからゲイとレイズビアン、エイズに関する一切の情報が消えてしまったというのによく似ている。歴史というのはこうして繰り返すのだろうと思いました。2023年の今、こうしたナチスの動きのようなものが世界のあちこちで生まれているんですよね」と指摘した。
それを受け秋田は「トランプやボルソナーロ、イスラエルの状況など、この数年でも色々な変化があります。映画の中で、ユダヤ人はニンニク臭いから席を変えてほしいといわれた、と登場人物が学校での記憶を語るシーンがありましたが、トランプの差別的な発言にすごく近い。自分がいま世界で起こっていることをここ10年くらいで体験しなかったら、教室で“ユダヤ人はにんにく臭い”と言われたことがホロコーストと繋がっていくとはピンと来なかったかもしれません」とコメント。
1945年の終戦から1957年、1968年と、3つの時代を描いた映画『大いなる自由』について北丸は、「強制収容所に入れられていたハンスは、本来ならば終戦によって解放されるはずなのだけど、そのまま刑務所に横滑りしてしまう。『刑法175条』に登場した、収容所で酷い目にあっていた同性愛者たちと同じ目にあっているのですよね」と関連性を語った。
さらに「ドイツでは1969年に同性愛が非犯罪化されましたが175条が廃止されたのは1994年。2002年に初めて政府として同性愛者コミュニティに謝罪するんです。2005年には欧州議会も同性愛者をナチスの犠牲者として追悼し、他の構成員と同じ尊厳と保護を受けると決議しました。ひとつひとつ謝罪して、カタをつけてきたんですよね。ところが日本政府はまだ包括的な差別禁止法というものがない。同性婚に関しても“社会が変わってしまう”と逡巡してしまう」と現在の日本の状況を憂う。
また「でも、90年代に盛り上がりをみせたゲイ運動があって、その流れの中でつくられたこの作品を今こんなにたくさんの人が見ている。今度は日本でそういった運動が盛り上がるといいですよね。LGBT運動の盛上がりって、女性の活躍の運動とも連動しているし、全ての反差別運動、全ての人権運動、全ての⺠主主義運動と連動している。自由とか、平等とか、そういう話だと思っていただければいいと思う」と力を込めた。
最後に「日本のジェンダーギャップ指数とかを見ても、全く意外な数字ではない。でも、映画というのはすごい力がありますよね」と語る秋田に対し、北丸は「この映画や『大いなる自由』はもちろん、レインボー・リール東京やトランスジェンダー映画祭、そして様々な作品が公開されています。そういう小さなひとつひとつの力が合わさって、いまここまできているんですよね」と締め括った。
・[動画]戦後ドイツ、男性同性愛を禁ずる刑法175条のもと愛する自由を求め続けた男の物語/映画『大いなる自由』予告編
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