「全員リンチだ」外国人労働者を“異物”と見なした村人たちが彼らに向ける偏見の視線…村で起こった些細な対立は“世界の縮図”なのか?
#エディット・スターテ#クリスティアン・ムンジウ#マクリーナ・バルラデアヌ#マリン・グリゴーレ#ヨーロッパ新世紀#ルーマニア#映画
分断された世界の今をあぶり出す、戦慄の社会派サスペンス
『4ヶ月、3週と2日』(07年)でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したルーマニアの巨星クリスティアン・ムンジウ監督最新作『ヨーロッパ新世紀』。本作より、予告編と場面写真を紹介する。
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ルーマニアン・ニューウェーヴの潮流を牽引してきた映画作家クリスティアン・ムンジウの6年ぶりとなる最新作『ヨーロッパ新世紀』は、ルーマニア中部トランシルヴァニア地方の小さな村を舞台にした群像劇だ。村で起こった些細な対立が深刻な紛争へと発展していく様を描きながら、幾多の火種を抱えたヨーロッパの不穏な新世紀、そして分断された世界の今をあぶり出す、戦慄の社会派サスペンスである。
舞台となるトランシルヴァニア地方は、ブラム・ストーカーの古典的な恐怖小説「吸血鬼ドラキュラ」の舞台になったことで有名だ。古くからの伝統行事が受け継がれ、ヨーロッパ有数の野生動物の生息地でもある。ルーマニア人とハンガリー人、少数のドイツ人やロマの人々が暮らし、ルーマニア語、ハンガリー語、ドイツ語、英語、フランス語といった多言語が飛び交う特異な地域でもある。本作では、そうした地域特有の風土をあますところなくカメラに収め、多民族の村の複雑怪奇な人間模様を映し出している。
予告編映像では、ルーマニアのトランシルヴァニア地方に、出稼ぎ先のドイツで問題を起こした男マティアスが帰郷し、関係が冷え切った妻と幼い息子ルディの家に戻るところから幕を開ける。少年ルディは森での“あること”をきっかけに口がきけなくなっている。マティアスの元恋人シーラが責任者を務めるパン工場で働き始めた外国人労働者をめぐって不穏な空気が流れ出す。
やがて村のSNSに過激な発言が投稿され、村から外国人を追放する署名運動に発展。そして、幼いルディが突如行方不明になり、シーラと外国人たちが夕食を囲む部屋に火炎瓶が投げ込まれる…。獣と一体化し凶兆を追い払うという、熊の着ぐるみを被って行進するこの地方の伝統儀式の様子も切り取られている。
地域の村の住民が一堂に会する緊急集会のシーンは、緊張感が最高潮に達する圧巻のクライマックスだ。17分間にもおよぶ固定カメラの長回しショットの一部が予告編に収められており、映画本編への期待が高まる映像となっている。
ムンジウ監督は本作のテーマについて、「本作は連帯対個人主義、寛容対利己主義、ポリティカル・コレクトネス(政治的妥当性)対真摯さといった現代社会が抱えるジレンマに疑問を投げかけている。また、自分の民族や部族に帰属し、他の民族、宗教、性別、社会階層を問わず他者を遠慮や疑惑の目で見るという、根源的な欲求にも疑問を投げかける。これは古き良きと思われている昔の時代と、混沌としていると思われている現在の時代の話であり、実行性よりも批判に価値が置かれるヨーロッパの裏側と偽りについての話でもある」と解説。
さらに「本作は世俗的な伝統に根ざした小さなコミュニティで、グローバル化がもたらした影響について描いている。情報・モラルが混沌とした現代において、真実と自分の意見を区別することの難しさを背負うことになった。この物語は、『政治的に正しくない』意見を特定の民族や集団に結びつけている訳ではない。意見や行動は常に個人的なものであるため、集団のアイデンティティに依存するのではなく、もっと複雑な要因に依存するのだ。社会的な意味合いを超えて、もっと根源的な人間そのものに根ざしている」と続ける。
パン工場が雇用した外国人労働者を“異物”と見なした村人たちが、容赦なく彼らに向ける偏見の視線と攻撃的な言葉。しかし、これは単なる人種差別の話ではない。小さなコミュニティーをとめどもなく覆い尽くしていくその波紋は、民族、宗教、貧富の格差などの問題に根ざした住民の不満を暴発させ、さらにはEUが推進するリベラルな政策やグローバル資本主義の歪みをも浮き彫りにしていく。それはまさに政治や思想のみならず、平穏な市民生活までが深刻な分断によって引き裂かれる“世界の縮図”にほかならない。
『ヨーロッパ新世紀』は10月14日より全国順次公開。
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