『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』が公開になるソフィア・コッポラ監督。昨年は同作でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞、もはや巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督の娘という肩書きは不要だが、父親はもちろん、兄や従兄弟、姪が映画界で活躍、昨年は母親のエレノアも80歳にして長編映画監督デビューを飾り、映画はコッポラ家のファミリー・ビジネスという感はますます強まっている。
・初演は大失敗に終わった人気オペラ、ソフィア・コッポラはどう料理した?
フランシスは大学時代から映画に傾倒、在学中から映画監督として歩み始めた。長編デビュー作『グラマー西部を荒らす』(62)の音楽を父親で作曲家・音楽家のカーマイン・コッポラに依頼。家族を巻き込んでキャリアを重ねていくスタイルは、ここから既に始まっていた。理想的な映画製作の環境を目指して69年に自身の映画製作会社「アメリカン・ゾエトロープ」を設立し、自身の作品はもちろん、ジョージ・ルーカスの『THX 1138 』(71)や『アメリカン・グラフィティ』(73)、黒澤明監督の『影武者』(79)なども手がけたが、経営難により破産。経営組織を変えて現在も存続していて、監督作『Virginia/ヴァージニア』(11)や息子や娘の作品(最新作『The Beguiled〜』も)を製作。かつての失敗経験から、趣味を生かした飲食業ビジネスに進出。一般に公開しているワイナリーやゾエトロープのオフィスのロビーに隣接した「カフェ・ゾエトロープ」を経営。ワイナリーの成功によって、映画ビジネスの環境も安定した。
妻のエレノアは、コッポラが63年に撮った『ディメンシャ13』にスタッフとして参加し、同年に結婚。3人の子どもを育てながら、夫の作品のスタッフを続け、『地獄の黙示録』(79)の撮影現場を追った『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』(91)などドキュメンタリーや、子どもたちの監督作のメイキングを手がけた。そんな彼女は2016年、80歳にして『ボンジュール、アン』で長編映画監督デビューを飾った。来日したエレノアは、映画製作の厳しさを知る夫は当初、積極的に応援はしてくれなかったと明かしつつ、本当に困った時には的確なアドバイスで支えてくれたと語っている。
1963年生まれの長男ジャン=カルロは『ゴッドファーザー』(72)や『カンバセーション 盗聴』(74)などに子役として登場した後、『アウトサイダー』『ランブルフィッシュ』(ともに83)ではアソシエート・プロデューサーとしてクレジットされ、父の現場で経験を積み始めた矢先の1986年に22歳の若さで事故死している。
2歳下の次男ロマンは、今やプロデューサーとしてソフィアの作品に欠かせない存在。兄と同じく、子どもの頃は父の作品に小さな役で出演し、10代後半になると、スタッフとして参加。兄亡き後は父の作品の第2班監督を務め、妹の長編監督デビュー作『ヴァージン・スーサイズ』(99)から最新作に至るまで、第2班監督やプロデューサーとして支えている。『CQ』(01)など監督作もあるが、本分はプロデューサー業と脚本。『ダージリン急行』(07)の製作・脚本、同監督の『ムーンライズ・キングダム』(12)の脚本、渡辺謙などが参加した『犬ヶ島』(18)の原案などウェス・アンダーソン監督とのコラボレーション、Amazonオリジナルシリーズ「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル」の製作・脚本でも知られている。
兄2人から少し歳が離れた1971年生まれのソフィアも、まだ赤ちゃんの頃から少女時代まで『ゴッドファーザー』や『ランブルフィッシュ』など父の作品に出演。18歳の時には、急病で降板したウィノナ・ライダーの代役として『ゴッドファーザー Part 3』のヒロインを演じた。ファッションにも強く、89年のオムニバス映画『ニューヨーク・ストーリーズ』で父のパートの衣装を担当、20代では自身のブランド「MILKFED.」を展開したり、ビジネスの手を広げる点も父親譲り。彼女もまた、映画作りについて父から教わったことはないという。「私が小さな頃から映画作りや脚本執筆について話してくれていた。でも、それは教えるというより、自分の仕事がどんなにエキサイティングかを語るものだった」とソフィアは語る。
フランシスは娘の誕生の瞬間を撮影していたという。コッポラ家の子どもたちは文字通り、生まれた時から映画と密接な関係を築き、大人たちの背中を見て育ち、自然に同じ道へと進んだ。
二世代で大きな成功を収めたコッポラ家だが、すでに次世代からも監督が誕生している。ジャン=カルロと当時19歳だった恋人との間に1987年に生まれた娘のジア・コッポラだ。少女時代を叔母ソフィアの撮影現場で過ごし、ソフィアや祖父の作品にスタッフとして参加した後、2013年『パロアルト・ストーリー』で長編映画監督としてデビュー。カーリー・レイ・ジェプセンのMVやグッチとのコラボーレションの短編映画などを手がけながら、次回長編作の準備を進めているという。
まだ幼いソフィアの娘たちも、母や叔母と同じ環境に育ち、やはり映画を作り始めるのか? 近い将来の展開が楽しみだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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