サステナブルな服作りを諦めない! 新たな潮流を生んだデザイナーの旅を追う『ファッション・リイマジン』
業界の悪しきシステムに疑問を持ったエイミー・パウニーの挑戦
【週末シネマ】みなさんはデニムパンツを1本作るのにどれだけの水が必要かご存じだろうか? 正解は1,500リットル。これは、1人の人間が飲む水の約2年分の量に相当するという。ただ水を大量消費するだけに留まらず、布を加工する過程で大量の化学薬品を使用して汚染水をも排出しているのだから始末が悪い。こんなのは氷山の一角で、ファッション業界の闇はとてつもなく広く深い。羊毛産業においては、羊の身体にウジが発生するのを防ぐために臀部の肉を麻酔なしで切り取る「ミュールシング」が当たり前に行われてきた。ウール製品を身につけている人たちの中に、そんな羊たちの痛みを知っている人がどれだけいるだろう。
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年間千億もの服が作られ、そのうち3/5が購入した年に捨てられるという異常な消費サイクル。それに対応すべく、人間たちは動物や環境などの地球資源を顧みず「いかに安く早く大量に効率良く服を作るか」だけを考えて身勝手なシステムを作り上げてしまった。
『ファッション・リイマジン』は、そんなファッション業界の巨大で悪質なシステムにテコ入れをすべく立ち上がった英国人デザイナー、エイミー・パウニーのドキュメンタリーである。ファッションブランド「Mother of Pearl」のデザイナーである彼女は、2017年にファッション誌「VOGUE」と英国ファッション協議会が選出する新人デザイナー最優秀賞を受賞。そこで得た10万ポンドの賞金を元手に、サステナブルをコンセプトとした新たなライン「No Frills」を立ち上げることを決意する。
環境や動物福祉に配慮した素材のみを使った服は作れるのか?
生地の原料の生産、紡績、染色、裁断、縫製、輸送など多くの過程を経て私たちの手元に服が届くわけだが、現代の流通システムではこのプロセスに最低5か国を経由するのが一般的だそうだ。エイミーはその全プロセスを把握して原料がどこでどのように生産されたかを確かめたうえで、最低限の水と化学薬品しか使わず動物福祉にも配慮した素材のみを使った服作りを志す。ファッション業界の流通システムについて無知であっても、これがいかに前途多難で過酷な挑戦かは容易に想像がつくだろう。
エイミーは自身の哲学を貫くにあたり、服作りのプロセスを従来の「デザインを起こす→それに合った素材を探す」から「サステナブルな素材を確保→素材ありきでデザインを起こす」に改める必要があった。すべてが手探りですべてが未知。ファッション業界の悪しきシステムへの孤独な挑戦が、静かに幕を開けたのである。
諦めずに進んだ先に見えたもの
エイミーと商品開発担当のクロエは早速サステナブルな素材探しを始めたが、製造過程にあまりに多くのプロセスや国がかかわっているため、紡績工場や縫製工場に素材の生産地について尋ねても明確な答えは返ってこないという現実に直面。だが途方に暮れながらも、彼女たちは決して諦めない。苦労の末に信頼できそうな生産者を探し当て、英国から南米ウルグアイまで羊牧場の見学に赴く。自分の目で確かめて信頼できると思った素材だけを使って服を作るのだ。動物と環境に配慮した羊牧場の美しい光景は、エイミーとクロエのみならず見る者の胸をも打つだろう。
今やハイブランドやファストファッションを問わずサステナブルな服作りをコンセプトに掲げることは珍しくなくなってきたが、そんな潮流のきっかけを作ったのがエイミーである。本作は、「毎日着ている服がどういう過程を経て流通システムに乗っているのか」「服の大量消費が環境や動物にどんな影響を与えているのか」など今まで知らなかったけれど考えなくてはいけないことを教えてくれる。英国の大手一般紙「ガーディアン」は、本作に「服を着る全ての人に観て欲しい」という一文を寄せた。「服を着る全ての人」とは「地球上に暮らす全ての人々」とほぼ同義と捉えて良いだろう。この記事を読んでひとりでも多くの方が映画館に足を運んでくださることを切に願う。(文:羽野ハノン/ライター)
『ファッション・リイマジン』は2023年9月22日より全国公開中。
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