カンヌ映画祭で最高賞パルドームを受賞した『万引き家族』が6月2、3日に先行上映される。パルムドールの反響が大きく、6月8日の公開予定を早めて先行上映される一方、上映館数は当初予定の200館から300館に拡大する。
パルムドール受賞の話題性はどのくらい興行を後押しするのか。近年の受賞作を見ると、公開は5月のカンヌ映画祭から期間が空き、数ヵ月〜1年後となることが多い。映画ファンにとってはパルムドール受賞の注目度は高いだろうが、タイムリーな話題性は薄れるため、映画ファン以外への興行効果はあまりなさそうなのが実情だ。
・是枝監督がパルムドール受賞、社会で忘れられた人々に焦点当てる
13年のパルムドール受賞作『アデル、ブルーは熱い色』→14年4月公開
14年『雪の轍』→15年6月公開
15年『ディーパンの闘い』→16年2月公開
16年『わたしは、ダニエル・ブレイク』→17年3月公開
17年『ザ・スクエア 思いやりの聖域』→18年4月公開
これらの作品が上映されるのは、ヒューマントラストシネマ有楽町やBunkamuraル・シネマなどミニシアターが中心。パルムドール受賞作をはじめアート系映画の大半はミニシアターでの上映を目指す。目の肥えた映画ファンが集まるためシネコンでの上映より観客動員が見込めるからだ。
ミニシアターでの上映を求めてアート系映画が数多く集まるため、数ヵ月先まで公開作品が決まっている。「カンヌで受賞後、期間を開けずに公開」というわけにはいかないのだ。
一方、『万引き家族』は状況が異なる。カンヌ映画祭のコンペティション部門に選出される前から、「TOHOシネマズ日比谷などで6月8日全国公開」が発表されていた。カンヌのコンペ部門選出、及び(何かしらの)受賞を見込んで6月8日に公開日が設定されたといえるだろう。
この設定が可能になるのは是枝裕和監督の実績があればこそ。特に13年『そして父になる』以降は、カンヌ映画祭やベネチア映画祭のコンペ部門選出だけではなく、興行的にも成功を収めている。『そして父になる』はカンヌで審査員賞を受賞。9月に公開され、興収32億円の大ヒットとなった。パルムドールに比べると格下の審査員賞だが、主演・福山雅治の人気もあり、是枝作品最大のヒットを記録した。『海街diary』(15年)はカンヌのコンペ部門に選出されたが、無冠。それでも6月公開で16.8億円をあげた。『三度目の殺人』(17年)はカンヌではなくベネチア映画祭のコンペ部門に選出され、無冠。9月公開で14.6億円をあげた。
日本人監督のパルムドール受賞は1997年、今村昌平監督の『うなぎ』以来だが、同作は地味目の内容からか、受賞効果はあまりなく、ヒットには結び付かなかった。『万引き家族』はタイムリーな公開もあり、『海街diary』『三度目の殺人』の興行成績を上回る可能性は十分だ。(文:相良智弘/フリーライター)
相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。
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