(…前編「相思相愛の細野晴臣×是枝裕和監督が〜待望の初顔合わせ!」より続く)
【映画を聴く】『万引き家族』後編
とりわけ匿名性が高い仕事
とはいえ、実際にでき上がった『万引き家族』の音楽は、いたっていつも通りの是枝トーン。というか、いつも以上に抑制され、ほとんど枯山水の域に達している。「細野さんが音楽をやっているから」と期待して見ると、思いっきり肩透かしを食らうだろう。近年の細野晴臣ワークスの中でも、とりわけ匿名性が高い。
・巧みな展開をほどよい距離感で援護するサウンドトラック/『レディ・バード』
オープニング近くで聴こえてくるカドの取れた丸いピアノの音像には、確かに細野晴臣っぽさを感じる。しかしその後の展開で“細野晴臣の音楽”を意識する場面はほとんどない。印象としては昨年リリースされた2枚組ソロアルバム『Vu Ja De』の“ESSAY”と名づけられたパートのインスト曲に近く、どの楽曲もメロディらしいメロディを持たない。和音やリズム、サウンドエフェクトのみで構成された、とても抽象的な仕上がりである。
制作途中の仮編集版を見た細野は、ドキュメンタリー的な本作の映像に音楽はほぼいらないと判断したのだろう。『銀河鉄道の夜』や『メゾン・ド・ヒミコ』のように見る者の記憶に残る“音楽”ではなく、映像の添えものに徹した“音”を提供している。これは、普段自分の名前で作品を発表している音楽家(=非映画音楽家)にとって、ある意味でとても勇気のいる行為だ。
『万引き家族』は6月8日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。
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