北野武監督『首』は不謹慎で怜悧な快作、衆道も絡む愛憎と名誉と権力のパワーゲーム
誰にも真似できない、北野流「本能寺の変」
【週末シネマ】北野武が脚本・監督を務め、ビートたけしとして主演する『首』は6年ぶりの監督作にして構想30年という歴史スペクタクル。織田信長が家臣の明智光秀の謀反によって命を落とした「本能寺の変」を題材に、血で血を洗う戦国時代をバイオレンスとユーモア満載でドライに描いていく。
・ビートたけしの「さっさと死ねよ!」のひと言から開幕、男たちが次々と血祭りに上げられていく…『首』ファイナル予告映像
天下統一を目指す織田信長が勢いを増す中、反乱を起こして姿を消した家臣・荒木村重を追うよう命じられた明智光秀、羽柴秀吉らを中心とした戦国武将たちのありようは、これまでの時代劇とは一線を画すものだ。
史実について「それってつまりこういうことだよ」という北野の解釈を、たけしが演じる野心とニヒリズムが混ざった百姓出身の秀吉が体現し、弟の羽柴秀長(大森南朋)と軍師の黒田官兵衛(浅野忠信)を相手にツッコミのような解説を入れながら、着々と謀略を押し進めていく。
物語の世界からはみ出すメタ的な佇まいで、扮装したたけしの武将コントのような瞬間さえあるが、それも気にならないどころか、北野作品でしか実現できない、誰にも真似できないオリジナリティに仕上げているのは流石だ。
切羽詰まれば人はどう行動するか、を生々しく描く
過去の北野映画で活躍した俳優が一堂に会する豪華キャストだが、けたたましい残虐さで特にインパクト大なのは加瀬亮が演じる織田信長だ。大胆不敵な孤高の存在として描かれることの多い信長だが、本作ではお国訛りでまくしたてる声の大きさと嗜虐性は特級サイズだが、カリスマ性はゼロ。西島秀俊が演じる明智光秀も、遠藤憲一が演じる荒木も、信長の凄まじいパワハラの標的にされ、追いつめられていく。
信長が自身の跡目をチラつかせて家臣たちに荒木の捜索を命じると、衆道も入る彼らの関係は主従の立場や愛憎が入り乱れ、名誉と欲まみれの騙し合いのパワーゲームと化す。さらに乱世の時代に成り上がろうとする百姓の茂助(中村獅童)が加わり、あらゆる階層にとっての戦国時代も見える。
恋愛よりも名誉や権力。だが命も惜しい。切羽詰まれば人はどう行動するか。その浅ましさが生々しい。
キャラクターの年齢と役者の実年齢の乖離も“精神年齢”と思えば納得
5月にカンヌ国際映画祭でお披露目上映された際は戦のシーンをはじめとする容赦ない暴力描写が注目された。確かに首を取られた無惨な姿がこれでもかと出てくるが、それよりも首の繋がっている侍たちのドラマに惹きつけられる。
面白く見たのは、演じるキャラクターの年齢と役者の実年齢の乖離だ。今年76歳のビートたけしが演じる秀吉は、史実では信長より3歳ほど年下だ。信長を演じる加瀬亮は今年49歳、52歳の西島秀俊が演じる光秀は信長よりも年上、72歳の小林薫が演じる徳川家康は信長より9歳下。役者の風貌そのままで見ると奇妙だが、見た目の年齢がその人物の精神年齢を表象するようで、ならば秀吉と家康、信長がこう見えるのは妙に説得力がある。
北野の監督しての才能を早くから評価した黒澤明の『影武者』や『乱』、俳優として出演した大島渚の『戦場のメリー・クリスマス』や『御法度』の影響を帯びつつ、跡目争いの物語は北野監督の『アウトレイジ』シリーズを彷彿させる。警戒し合い、裏切りのスパイラルにはまり込む男たち。信じて裏切られる方がまだまし、という地獄のような境地でいきいきと楽しそうにすら見える秀吉も、その末路はご存知の通り。どこまでも不謹慎で怜悧な怪作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『首』は、2023年11月23日より全国公開中。
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