【週末シネマ】『クレイジー・リッチ!』
白人キャストを断固拒否して作られた異色作
今夏、メジャースタジオ配給作で主要キャスト全員がアジア系という異色のハリウッド映画が全米興行収入第1位を記録した。邦題は『クレイジー・リッチ!』だが、原題および原作小説のタイトルには“正気の沙汰ではないほどリッチ”の後に“エイジアンズ(Asians)”が付く。アメリカ育ちの中国系アメリカ人女性が恋人の里帰りに同行し、目の当たりにしたシンガポールのクレイジー・リッチたちや名家のしきたりに驚き、戸惑いながら進んでいくロマンティック・コメディだ。
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主人公のレイチェルは若くしてニューヨーク大学で経済学を教える教授で、恋人は同僚でもあるニック。夏休みに、ニックが親友の結婚式に出席するのに同行することになり、彼の故郷シンガポールへいざ出発という時点で、彼女はニックが大富豪の子息であると知る。レイチェルはというと、中国からの移民である母と2人きりで質素に暮らし、学業で身を立てた自立心旺盛な女性。慎ましい身の上のヒロインが文字通りの王子様と恋をするというストーリーは、それこそ白人のハリウッド・スター主演で何度も繰り返し作られてきた王道中の王道の展開だ。
レイチェルを演じるのは台湾系アメリカ人のコンスタンス・ウー。当初は設定を白人女性に変更する案もあったが、原作のケヴィン・クワンは断固拒否した経緯があるが、ウー自身かつて「白人の観客を相手に、白人俳優と役を競うためにはオリンピック選手並みの努力が必要」とアジア系俳優を取り巻く状況の厳しさを語ったことがある。イギリスで育ったニックを演じたヘンリー・ゴールディングはマレーシア系イギリス人でこれが映画初出演。『オーシャンズ8』のオークワフィナがペク・リンを演じ、父親役のケン・チョン(『ハングオーバー!』シリーズ)とともにコメディ・リリーフを務める。アストリッドはイギリス出身のジェンマ・チャン、ニックの親友の婚約者を日系イギリス人のソノヤ・ミズノが演じている。
クールビューティーのニックの母を演じるのはミシェル・ヨー。香港映画での活躍を経て、『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』『グリーン・デスティニー』などで国際派女優となったヨーは、“家を守る”という使命を担う美しくも厳しい女性を演じ、姿形は同じアジア人ながらアメリカの価値観を持つレイチェルとの対照を印象づける。『クレイジー・リッチ!』が、よくあるシンデレラ・ストーリーに収まらず、新鮮な驚きを与えるのはこの2人の関係によるところが大きい。聡明な女性同士が終盤に繰り広げる静かな対決はドラマティックで、どちらに肩入れをして見ていても最終的には双方の思いに心を揺さぶられる。
本作はアメリカでは公開から3週連続で興収1位を記録、続編の企画も進み始めたという。今年前半には主要キャストの大半がアフリカ系の『ブラックパンサー』が、アメリカをはじめ世界各国で社会現象となる大ヒットとなったのが記憶に新しい。近年、ハリウッドで重視され始めた“多様性”を象徴する作品が商業的に成功を収めたことで今後の映画界にどんな変化をもたらすかも興味深い。(文:冨永由紀/映画ライター)
『クレイジー・リッチ!』は9月28日より公開。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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