台風直撃、歩けないほどの暴風に見舞われ蒼井優や池松壮亮も出席断念

#映画祭

『寝ても覚めても』の唐田えりかと東出昌大が釜山国際映画祭レッドカーペットに登場
『寝ても覚めても』の唐田えりかと東出昌大が釜山国際映画祭レッドカーペットに登場
『寝ても覚めても』の唐田えりかと東出昌大が釜山国際映画祭レッドカーペットに登場
会場の大スクリーンに映し出される安田顕、ナッツ・シトイ、吉田恵輔監督(『愛しのアイリーン』)
映画祭期間中、毎日発行される公式誌〈シネ21〉の表紙も華やか
舞台挨拶に立つスヨン(右から2人目)と田中俊介(右から3人目)(『デッドエンドの思い出』)
今年で23回目を迎えた釜山国際映画祭

●「正常化」を目指した第23回釜山国際映画祭

少しだけ爽やかな風がそよぐ10月初め。台風が連続で発生している中、釜山国際映画祭の時期がやってきた。第23回を迎える今回は、釜山市の市長がオ・ゴドン氏に変わったことを機に釜山市との和合、そして「正常化」された映画祭となった。2014年、セウォル号沈没のドキュメンタリー『ダイビング・ベル』の上映を巡る、韓国政府(当時はパク・クネ大統領)による抑圧と葛藤。韓国映画人たちの釜山国際映画祭ボイコット。数々の危機を乗り越え、今年も無事79か国、ワールドプレミア作品115本を含む合計324本の映画が上映された。

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10月4日のレッドカーペットには、オープニング作品『Beautiful Days』(ユン・ジェホ監督)で6年ぶりにスクリーンへカムバックしたイ・ナヨン、『猖獗(原題)』からヒョンビン、チャン・ドンゴン、『Ode to the Goose』出演のパク・ヘイルのほか、スエやユン・ヨジョンなど、韓国を代表する多くの俳優陣や、中国の人気俳優ホアン・ボーが監督・主演を務めた『The Island』に出演したEXOのレイなどが続々と登場。

日本からは現在公開中の『寝ても覚めても』唐田えりか、東出昌大、『愛しのアイリーン』からは安田顕とナッツ・シトイ、吉田恵輔監督が登場し、韓国の観客からの声援に答えた。初めて国際映画祭のレッドカーペットを踏んだ安田顕は、「素直にうれしい。アジア最大の映画祭を経験できたこと、そしてこの場に立たせてくれた『愛しのアイリーン』に関わった全ての人に感謝したいです」と感慨深く語った。

国内外の映画人が一堂に会したオープニングセレモニーは、日本でも人気のある俳優キム・ナムギルと女優ハン・ジミンが司会を務め、今年のアジア映画人賞を受賞した坂本龍一の登壇や、俳優・國村隼がニュー・カレンツ部門審査員の一員として出席するなど、日本の映画人にも愛される釜山国際映画祭の開幕となった。

●台風25号の直撃にもめげない映画ファンたち

華やかな開幕から一転、2日目からは台風25号(韓国では“コンレイ”と呼んでいた)が不穏な進路で近づいていた。どうか釜山に来ないでとの願いに反して、3日目の10月6日に釜山を直撃。その日はちょうど、アジア最大の映画マーケットと言っても過言ではないAsian Film Marketの開幕日。多くの映画関係者が宿泊しているセンタムシティホテルから会場のBexcoまで徒歩5分の距離が歩けないほどの強風が吹き荒れ、映画祭でも、塚本晋也監督作『斬、』の主演・池松壮亮や蒼井優など多くのゲストが渡韓を断念。また釜山国際映画祭ならではの海辺のイベントが軒並み中止になり、場所や時間を変更するはめになった。

そんな災難に見舞われてもめげないのが新生釜山国際映画祭と映画祭を愛する観客たち。多くの作品はチケットが完売。やはりワールドプレミア作品は人気が高く、出演俳優と監督が揃う韓国映画のチケットは争奪戦となった。

注目すべきは日韓合作映画『デッドエンドの思い出』。(19年2月日本公開予定)よしもとばななの同名短編小説を映画化したこの作品は、少女時代のチェ・スヨンとBOYS AND MENの田中俊介をW主演に、名古屋で撮影された。

釜山国際映画祭では、スヨンや田中俊介と出演者、そしてチェ・ヒョンヨン監督があふれるほどの観客を前に野外で舞台挨拶。台風のせいで毎年おなじみだった海雲台の海辺のステージから映画の殿堂内へと場所を移したが、観客の大歓声に迎えられた。本作で婚約中の彼に会うために日本に来たが、その彼には同棲する日本人女性がいることを知ってしまう主人公ユミの心の揺らぎを繊細に演じ、劇中流ちょうな日本語も披露するスヨンは「少女時代としてデビューするより前にまず日本でデビューしたので、いつか日本で映画に出演したかった」と語った。一方、傷心のユミが偶然たどり着いたカフェを営む男性を演じる田中俊介は、普段から韓国映画好きを公言しているだけあって「アイゴアイゴ(おやおや)」と言いながらハングルと名古屋弁を混ぜて「でら・カムサハムニダ(ありがとうございます)!」と挨拶し、客席を盛り上げた。

10月13日、台風やこれまでの葛藤などを乗り越え、多くの映画ファン、映画人たちが訪れた釜山国際映画祭が無事閉幕した。今年の動員数はこれまでの20万超えにわずかに届かず195,081人。それでも、アジア最大の国際映画祭として、国内外からの注目は続くだろう。

そう言えば、釜山国際映画祭の各会場で自由に手に取れる公式誌〈シネ21〉に面白い記事が載っていた。〈BIFFの思い出〉という小さなコーナーで、『国家代表?!』のキム・ヨンファ監督が登場し、キム監督は釜山の屋台でハ・ジョンウやキム・ジソクと飲み明かした思い出を披露。酒代が200万ウォン(20万円)を越え、現金払いのみの屋台に支払うため、ATMを探し回ったとか。

今年は台風が直撃したが、いつもはキラキラ光る海、やわらかい風、なにより美味しい料理と、映画以外にも大いに楽しめる釜山。第23回釜山国際映画祭を後にしながら、再び華やかさを取り戻そうとする姿は垣間見られたが、来年はより韓国映画界と密接に、そして国内外の多くの映画と観客が出会う、アジア最大の、唯一無二の映画祭になってほしいと願うのだった。

【主な受賞結果】

ニューカレンツ賞
 『SAVAGE』CUI Si Wei(中国)
 『Clean Up』KWON Man-Ki(韓国)

キム・ジソク賞
 『Rona,Azim’s Mother』Jamshid MAHMOUDI(アフガニスタン、イラン)
 『The Rib』ZHANG Wei (中国)

BIFFメセナ賞
 『Opening Closing Forgetting』James T. Hong(台湾)
 『ARMY』Kelvin Kyungkun PARK(韓国)
 *スペシャル・メンション
 『A War of Memories』LEE-KIL Bora(韓国)

ソンジェ賞
 『Cat Day Afternoon』KWON Sungmo(韓国)
 『NOOREH』Ashish PANDEY(インド)

Actor & Actress of the Year賞
 LEE Juyeong『Maggie』(韓国)
 CHOIHee-Seo『Our Body』(韓国)
 (今年は異例の女優2名の受賞となった。通常は男優、女優各1名ずつに授与される。)

CGV Arthouse 賞
 『Maggie』YI Okseop(韓国)

NETPAC賞
 『House of Hummingbird』KIM Bora(韓国)

FIPRESCI賞
 『The Red Phallus』Tashi GYELTSHEN(ブータン、ドイツ、ネパール)

Asian Filmmaker of the Year 賞
 坂本龍一

(文:33 BLOCKS・配給買付担当)