ビリー・アイリッシュら豪華面々が参加! 『ROMA』コンピアルバムがすごすぎる

#ROMA/ローマ#映画を聴く

『ROMA/ローマ』撮影中のアルフォンソ・キュアロン監督(左)
Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』独占配信中
『ROMA/ローマ』撮影中のアルフォンソ・キュアロン監督(左)
Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』独占配信中

…前編「音も映像も実はスゴイ! オスカー目玉作品『ROMA』はAV的カタルシスも堪能できる作品」より続く

【映画を聴く】『ROMA/ローマ』後編
オスカー最多10部門ノミネート、善戦を期待したい!

『ROMA/ローマ』の音楽面の話題としてもうひとつ、アルフォンソ・キュアロン監督自身がプロデュースした『Music Inspired By The Film Roma』というコンピレーションアルバムも忘れてはいけない。キュアロン監督が自分のお気に入りのアーティストに声をかけ、映画から受けた印象を楽曲にしてほしいと依頼したもので、パティ・スミス、ベック、ビリー・アイリッシュ、ローラ・マーリング、T・ボーン・バーネットら、豪華な面々が参加。しかも15曲すべてが新録音という充実ぶりだ(パティ・スミスは自作曲のセルフカヴァー)。

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ハイライトは、やはりベックの歌う「Tarantula」だろうか。80年代にイギリスの4ADレーベルで活動したカラーボックスというグループの楽曲をカヴァーしたもので、ベックは実父で編曲家のデヴィッド・キャンベルによる壮大なオーケストレーションをバックに、ひとり多重コーラスを駆使しながら朗々と歌い上げている。終盤にはカナダの女性シンガー・ソングライター、ファイストとの掛け合いも重なり、2002年の『Sea Change』や2014年の『Morning Phase』あたりに収録されていても不思議ではない仕上がりになっている。

『ROMA/ローマ』にインスパイアされた楽曲として、この「Tarantula」を引っ張り出してきたベックの意図は、歌詞を眺めれば理解できる。「偽りのマスクを被る」「未来の見通しは厳しい」「愚かな男たちとともにある嘘の決断」「奇妙な黒潮」など、登場人物たちの置かれた立場や心境、不穏な社会的背景とリンクするようなフレーズをいくつも見つけることができるからだ。

ベックと同じく、アルバムリリースに先立って音源が公開されていたビリー・アイリッシュの「When I Was Older」も大きな聴きどころ。ベックは父親とのコラボだったが、こちらは実の兄であるフィニアス・オコンネルのプロデュース。ミニマルかつダークなトラックに加工されたヴォーカルが乗る。2001年生まれの17歳とは思えない、ある種の諦観すら漂う歌声とサウンドは、映画前半では最前面に出てこない登場人物の各人(特に母親のソフィア)と社会の混乱に焦点を絞ったものだろう。

その他の楽曲についても、単に映画のワンシーンをトレースしたり、登場人物に感情移入するのではなく、現代社会にも有用な問いかけとサウンドが折衷した聴き応えのあるものが並んでいる。ある意味では、オリジナルサウンドトラックを聴くよりも『ROMA/ローマ』に近い世界観に浸ることができるので、Netflixで本編鑑賞後、SpotifyやAppleMusicでお楽しみいただきたい。

第91回アカデミー賞授賞式は、日本時間の2月25日10時頃から行なわれる。『女王陛下のお気に入り』と同じ最多10部門ノミネートの本作が、何部門で受賞を勝ち取るか。Netflix配信作がここまで賞レースを駆け上がること自体が異例だが、ここまできたら善戦を期待したい。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』、Netflixにて独占配信中。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。取材と構成を担当した澤野由明『澤野工房物語〜下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(DU BOOKS刊)が刊行されたばかり。