撮影中緊張してしまった杉咲花に志尊淳が取った行動とは…?
本屋大賞受賞の傑作ベストセラー小説を映画化した『52ヘルツのクジラたち』の大ヒット御礼舞台挨拶が行われ、杉咲花、志尊淳、成島出監督が登壇。撮影エピソードや、公開に向けて作品にかける熱い思いを語った。
・志尊淳、『52ヘルツのクジラたち』へ出演を決めた理由のひとつは「主役が杉咲花ちゃんだったこと」
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イベントには杉咲花、志尊淳、成島出監督が登壇し、観客から寄せられた質問に答えた。トランスジェンダー男性である安吾を演じた志尊に、安吾のひげを生やしたビジュアルをはじめ、役にアプローチする上でのリサーチについての質問が。志尊は、この役のオファーを受けて、トランスジェンダーの男性の写真やその生い立ち、生き方などが掲載された雑誌を読んで、安吾をどのように作っていくか思いを巡らせたという。
さらに「実際に話を聞いてみたいと思っていたところ、トランスジェンダー監修の若林佑真くんが、当事者の方がやっているバーに連れて行ってくれて、そこにお友だちが5~6人いて、お酒を飲みながら語る機会を作ってくれたんです。僕が、無知な部分が多くて失礼なこともあるかもしれませんが、いろいろ聞かせてくださいとお願いして、快くいろんなことを聞かせてくださって、アンさんという役にそれを落とし込んだ時、ひげをはやしたいと思い、あのビジュアルになりました。ひげひとつとっても、カメラテストをして、鼻の下に着けてみたり、あごの広さを考えたり、一本単位で調整してつくっていきました」と役作りのプロセスを明かした。
また「本作に携わったことで芽生えた気づきや新たな発見、心動かされたこと」について尋ねられると杉咲は、本作においてヤングケアラーやネグレクトなどの社会問題や性的マイノリティの人々を描く上での当事者や有識者へのリサーチ、そして監修で入ったスタッフの存在に言及。
「映画を見てくださる方々の中にもきっと当事者の方がいて、だからこそ、わかったつもりになってはいけないと思っていました。トランスジェンダーの表現の監修で入ってくださった若林佑真、LGBTQ+インクルーシブディレクターで入ってくださったミヤタ廉さん、インティマシーコーディネーターの浅田智穂さんなど、本当に様々なスタッフさんが、多角的な視点を持ち寄って、より良いものにしていくためにどうしたらいいかと熱い議論を積み重ねて、だからこそ辿り着けたものがあったと思います。自分にわからないものを『わからない』と言葉にしてシェアして、初めて見えてくるものがあって、わからないことがダメなことじゃないと思えたことが、相手を知る第一歩に繋がるという、大切な経験になったと思います」と本作を通じて得た大切な気づきを口にする。
俳優として現場で対峙し、さらに完成した作品を見て、お互いに感じた俳優としての魅力や素晴らしさについての質問では、杉咲は志尊について「アンさんのどのシーンも鮮明に自分の中にあるので『ここ』と挙げるのが難しいんですが…」と思案しつつ、安吾の運転する車から飛び出した貴瑚が、「すべて吐き出していいんだよ」という言葉を安吾から掛けられる一連のシーンについて言及。
「撮影直前に緊張してしまって、そうしたら志尊くんが手を握ってくださったんです。扉を開けられないくらいの緊張感だったんですけど、本番が始まって『飛び出さないと』と思って、カメラの前に立って、貴瑚は自分のことで精一杯で、隣でどんな表情をしているのか、完成しているものを見るまでわかんなかったんですが、言葉に言い表せないような温もりに満ちた表情をアンさんがしていて、初号で見た時は胸がいっぱいになりました」と印象深いシーンについて語った。
志尊はこのシーンについて「メチャクチャ鮮明に覚えています」と語る。安吾を演じる上で「本を読みこみ、自分なりにプランを立てて、(キーとなるシーンから)逆算して作っていった」とふり返りつつ、このシーンは「プラン通りにいかなったシーンだった」と告白。
「花ちゃん然り、キナコ(=貴瑚)が、握ったら本当になくなってしまうんじゃないか?と思えて、その姿を見て『触れないことはできない』と思って、僕もその時は気づかず、後で若林佑真くんに言われたんですけど、(杉咲の)背中に触れてしまったんですよね。それくらい、『本当にこのままなくなっちゃうんじゃないか』という花ちゃんの佇まいを見たので、演技プランは変わったものの、やっぱり“生”の2人のキャッチボールの積み重ねでできたんじゃないかと思います」と自身にとっても思いもよらないシーンになったと語る。
一方、志尊は、杉咲の魅力について「(語り始めると)2時間くらいかかる(笑)」と前置きしつつ、「杉咲さんが出る作品を見て、みなさんと同様に『なんて素晴らしいんだろう』と思っていますけど、それが『天才だから』とか『生まれ持ったものだ』と思われるのがすごくイヤなんです。杉咲花という人間は、こんなにも作品に自分の気持ちや時間を捧げていて、『こんなにも寄り添い遂げる人がいるんだ!』というのをそばで見て感じていました。彼女は多分、自分で思い描いて余裕を持ってなんてやっていなくて、1シーン、1シーン、『このままなくなっちゃうんじゃないか?』と思うくらい、すり減らして向き合ってるんです。僕が心配なのは、このまますり減って、壊れてしまうこと。でも、それが花ちゃんが仕事に向かうスタンスだから、上手く共存できて、自分の身体をしっかりと保てるんであれば、僕は日本の宝だと思ってるんで、これからもいろんな作品を届けてほしいという思いです」と熱い“杉咲花論”を展開し、会場は同意の温かい拍手に包まれる。
杉咲は「これ以上ないほどの言葉をいただいて、身に余る言葉で恐縮で嬉しいです」と照れくさそうな笑みを浮かべつつ、「こんなふうに言ってくださる、自分にも想像しきれないほどのとてつもない愛情をもって、志尊くんは現場に毎日立っていてくださったので、そんな方と共演できたことは、かけがえのない時間でしたし、いち俳優としても心の底から尊敬しています」と返した。
舞台挨拶の最後に杉咲は「他人の痛みをわかることはできなくても、それでも隣にいて、想像力をもって、これからも関わろうとしていきたいと、この映画を見て感じました。もしそんなふうに思ってくださる方がいたら嬉しいです。よかったら、みなさんの言葉で、この映画の話を誰かにしていていただけたら嬉しいです」と語り、温かい拍手の中で舞台挨拶は幕を閉じた。
『52ヘルツのクジラたち』は現在公開中。
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