カンヌ審査委員長のイニャリトゥ監督も! メキシコ出身監督が映画界を席巻

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今年のカンヌ国際映画祭審査委員長をつとめる、メキシコ出身のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督
今年のカンヌ国際映画祭審査委員長をつとめる、メキシコ出身のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督

5月14日に開幕するカンヌ国際映画祭。今回、審査委員長を務めるのはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。今ハリウッドを席捲するメキシコ出身監督の1人だ。アカデミー賞監督賞はここ6年でメキシコ出身監督が5回受賞している。

『ローマ』、アカデミー賞最多10部門候補で映画業界に激震!

【アカデミー賞監督賞の受賞者】
14年『ゼロ・グラビティ』アルフォンソ・キュアロン
15年『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』イニャリトゥ
16年『レヴェナント: 蘇えりし者』イニャリトゥ
(17年はアメリカ人のデイミアン・チャゼル『ラ・ラ・ランド』)
18年『シェイプ・オブ・ウォーター』ギレルモ・デル・トロ
19年『ROMA/ローマ』キュアロン

なぜ彼らがハリウッドで評価されるのか。彼らのプロフィールから探る。

最初にハリウッドに進出したのはキュアロン(61年生まれ)だ。95年『リトル・プリンセス』でハリウッド映画デビューを果たす。97年『大いなる遺産』の後、02年に10年ぶりに故国メキシコで撮影した『天国の口、終りの楽園。』を公開。アカデミー賞脚本賞候補となる。これがきっかけでシリーズ3作目『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(04年)に抜擢され、2億5000万ドル(米国の興収、以下同)の大ヒットを記録する。以後、『トゥモロー・ワールド』(06年、アカデミー賞脚色賞候補)、『パリ、ジュテーム』(07年)と着実にキャリアを重ね、『ゼロ・グラビティ』(13年)が2億7400万ドルの大ヒット。アカデミー賞監督賞を受賞する。そして今年、『ROMA/ローマ』で再びアカデミー賞監督賞を受賞する。

デル・トロ(64年生まれ)は子どもの頃からホラー映画やモンスター映画のファン。彼が作る映画は一貫して自らが好きなものを題材にしている。長編映画監督デビュー作『クロノス』(93)でカンヌ国際映画祭の批評家週間グランプリに選ばれ注目を集める。続く『ミミック』(97年)でハリウッドに進出。02年に『ブレイドII』に抜擢され8200万ドルのスマッシュヒット。『ヘルボーイ』(04年)は彼が愛読するコミックで、7年をかけてハリウッドのメジャースタジオを説得して映画化。自ら脚本も手がけ、6000万ドルのスマッシュヒットを記録する。続くメキシコとスペインの合作『パンズ・ラビリンス』(06年)でアカデミー賞脚本賞候補となる。その後、自ら企画を立ち上げ、脚本も手がけた『パシフィック・リム』(13年)は1億200万ドルを記録。『シェイプ・オブ・ウォーター』(17年)はベネチア国際映画祭の金獅子賞に輝いた後、アカデミー賞で作品賞・監督賞を含む4部門を受賞。6400万ドルのスマッシュヒットとなる。

最後はイニャリトゥ(63年生まれ)。大学在学中の1984年、ラジオの音楽番組の司会者となり、その後映画音楽の作曲も手がける。長編映画初監督作『アモーレス・ペロス』(00年)が、カンヌ国際映画祭の批評家週間でグランプリを受賞し注目を集める。『バベル』(06年)ではカンヌ国際映画祭の監督賞とエキュメニカル審査員賞を受賞し、アカデミー賞で作品賞と監督賞に初ノミネートされる。興収は3400万ドルと、シリアスな内容からか平凡な興行成績に終わる。2度目のノミネートとなった『バードマン』(14年)で作品賞と監督賞に輝く。だが興収は4200万ドルと、『バベル』同様ヒットとは程遠い。2年連続で監督賞を受賞した『レヴェナント: 蘇えりし者』が1億8400万ドルと自身初の大ヒット作となった。

3人に共通するのは、独自の作家性を持つ監督でありながら、ヒット映画を生み出す商業性も兼ね備えていること。ハリウッドで生き残るには興行的な成功も欠かせない。

3人は以前からアカデミーが才能を評価していた逸材だが、メキシコ出身監督のアカデミー賞監督賞連続受賞は偶然の産物だろう。ただし、ハリウッドで近年叫ばれている多様性の重視が3人に改めてスポットを当てた側面もありそうだ。(文:相良智弘/フリーライター)

相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。