(…「【BLUE LYNXが始動!/2】BL好き公言の三浦しをん&丹地陽子起用で心理的ハードルを下げる作戦?」より続く)
【BLUE LYNXが始動!/3】
ひっそりあったBLがフジテレビによって大々的に⁉
この春、フジテレビが「BLUE LINX」という、BLに特化したアニメレーベルを立ち上げた。第一弾は腐女子の神作家・ヨネダコウ原作による、一筋縄ではいかない大人なBLの「囀る鳥は羽ばたかない」の劇場アニメ化だ!
「囀る鳥は羽ばたかない」はBLでは人気ジャンルである“極道もの”で、主人公は真誠会若頭の矢代という男。飄々としているが少年期に性的虐待を受けていた彼は、男相手に被虐的なセックスを繰り返している。
彼のもとに無骨で無口な男・百目鬼(どうめき)が見習いとしてやってくる。おおよそ極道に向いていない木偶の坊の百目鬼だが、変わり者の矢代は百目鬼を面白がって側におくようになる。矢代が百目鬼を気に入ったのは面白がっているだけでなく、もうひとつの要素があった。百目鬼は過去のある事件をきっかけにED(勃起不全)になっていたのだ。
自分に性的な欲求を向けない百目鬼は、矢代にとっては心が安らぐ存在。百目鬼のほうは今まで出会ったどんな人間とも違う矢代に魅せられ、愚直なほどに従って一途に慕う。そんな彼ら取り巻く闇社会は不穏な空気で、組織の中でも外でも抗争の動きがあり、ジワジワと矢代は追い詰められていく……。
言葉であらすじを書くとどうしても陳腐になってしまうが、人物の多面的な描き方や緩急つけたストーリーテリングは吸引力高くてグイグイと物語の世界に引き込まれる。闇社会のドラマも見応えがあって、萌キュンを求める若い世代には少々辛気臭いかもしれないが、一般のドラマ作品を好む大人も飽きさせない繊細で骨太な作品だ。
それと、萌キュンがないように聞こえたかもしれないが、一見汚れているように見える矢代が垣間見せる痛々しいまでのピュアさにズキュンとなる! また、すぐにエッチしてしまう作品も多いBLだが、これは物理的に不可能。だって、攻めの百目鬼がEDだから! 受けの矢代は百目鬼がEDだから癒されてるわけで! 読者としては2人に結ばれて欲しいけど、百目鬼がEDでなくなれば矢代にとって彼は……!
ああ、この矛盾! もどかしい! いったい彼らはどんな結末を迎えるのか、悶絶しながら読者は目が離せなくなるのだ。
劇場アニメ化である『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』は第一章となっていて、コミックス第6巻まで発売されていてまだ完結していない原作をどこまで描くのかも気になるところ。ティザーPVを見る限りでは3巻あたりまでだろうか。ボイスキャストはまだ発表になっていないが、すでに発売されているドラマCDと同じなのだろうか?
音楽はいわゆるアニソンではなく、ジャジーなピアノの曲というのは粋でいい感じだ。ヨネダコウはコマ運びや構図、行間の読ませ方など作風がつねづね映画的だと感じていたから、映像作品には向いている気がして期待が高まる。
ゴールデンウィークには池袋駅構内の何本もの柱のモニターで、この予告編が流れていて鳥肌ものだった! これまでこっそりとあったBLはひっそりと楽しまれているものだったのに、一般の大勢の人が行き交う駅前で数々のモニターから『囀る〜』の映像が流れていてこそばゆいような嬉しいような不思議な感覚に。フジテレビが参入するとこうなるのか!
いったいどのように映像化されて、公開時にはどのような宣伝展開がされるのだろう? そこも含めて楽しみでならない。『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』は今冬公開の予定だ。(文:矢野絢子/ライター)
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