【映画を聴く】『ゴールデン・リバー』
フランスの名匠、ジャック・オーディアールが監督を務めた『ゴールデン・リバー』は、ゴールドラッシュで沸く1850年代のオレゴン州を舞台としたサスペンス色の濃い西部劇作品。60年代半ばのマカロニ・ウェスタン全盛の時代から“アメリカ人ではない監督”ならではの視点を持つウェスタン映画は少なからず作られてきたが、本作もその系譜に連なる印象深い作品に仕上がっている。
・『ゴールデン・リバー』ジャック・オーディアール監督インタビュー
当代最強の殺し屋兄弟と恐れられるイーライとチャーリーのシスターズ兄弟と、水中の黄金を見分けることができる“預言者の薬”を作るための化学式を発見したウォーム、彼のユートピア構想に心酔する連絡係のモリス。4人それぞれが身勝手な思惑のために結託し、物語は予想だにしない方向へ突き進んでいく。その行く末はぜひとも劇場で確かめてほしいところだが、あまりにも救い難く、痛々しいものだ。
そして、劇中の登場人物たちの思惑や、彼ら自身にはコントロールできない理不尽な時の流れを最小限の音で効果的に演出してみせるのが、アレクサンドル・デスプラの音楽だ。オーディアール監督の『真夜中のピアニスト』のほか、「ハリー・ポッター」シリーズや『英国王のスピーチ』『ゼロ・ダーク・サーティ』『グランド・ブダペスト・ホテル』『リリーのすべて』など膨大な作品に関わり、直近では『シェイプ・オブ・ウォーター』でのアカデミー賞作曲賞の受賞も記憶に新しいデスプラだが、本作では叙情的なメロディや躍動的なリズムは控えめに、不穏なシンセサイザーの持続音や点描のようなピアノの音色でミニマルな音世界を構築している。おそらく本作を見て音楽のことを気に留める人は少ないと思うが、見終えた時には印象的な映像の数々とともに音の断片が頭の中でぐるぐるとリピートされることだろう。
ハードな局面をいくつも乗り越えたシスターズ兄弟は、最終的にイーライが望み続けた“ホーム”へと辿り着く。最後の最後で静かに花開くデスプラ本来のメランコリーは、作品の着地点を明確にして、見る者を安心させてくれる。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
『ゴールデン・リバー』は7月5日より全国公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。取材と構成を担当した澤野由明『澤野工房物語〜下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(DU BOOKS刊)が刊行されたばかり。
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