(…中編「痛バを持ちグッズを買いまくる女性たちが、坂本真綾で大炎上!」より続く)
んん?どこか可笑しなアニメ化は「キンプリ」の監督
【元ネタ比較】『あんさんぶるスターズ!』後編
アニメシリーズ化されて放送中の大人気女性向けアプリゲーム「あんさんぶるスターズ!」、略して「あんスタ」。キャラクターの声優たちはゲームと同じで順当だったが、“あんず役 坂本真綾”と発表があったときは「あんスタ」ヲタクたちからは悲鳴が上がって大炎上した。
“あんず”とはゲーム上での主人公でプレイヤー自身である。私立夢ノ咲学院のプロデュース科に転向してきたあんずが、アイドルを目指す男の子たちと交流しながらプロデュースして行くという設定になっている。
しかしながらゲームには姿や声は登場せず、男の子たちに話しかけられたりしてあんずの一人称目線で展開され、プレイヤーと同化している。けれどもアニメではひとりのキャラクターとして登場する。つまり、キャラクターたちにガチ恋しているヲタクたちにとっては邪魔な存在で嫉妬の対象というわけだ。あんずに好意を寄せるようになるキャラクターもいるのでなおのこと。
いや、しかし、ゲームの主人公でもあるのならアニメにも登場するのが当然と言えば当然という声もある。たしかに「うたの プリンスさまっ」も「アイドリッシュセブン」も女性主人公のキャラクターはアニメにも登場する。それにもかかわらず「あんスタ」ではこんなにも炎上してしまったのはやはりキャラクターへの愛が強いからじゃないだろうか。
また、「あんスタ」は少女漫画誌「ARIA」で連載されたコミカライズがあり、そちらでは女性主人公は登場せず、男の子たちのドラマが展開され、違和感なく成り立っている。この女性主人公を描かない方式ではなく、炎上は予測されても女性主人公を据えて描いて行く方式にしたのには訳があるだろう。
放送開始したアニメシリーズでは、夢ノ咲学院の説明やキャラクター紹介の画面など、ゲームを意識したようなデザイン。それに転校生のあんずに紹介することでゲームのチュートリアルと同様の役目を果たして、知らない者でも入りやすいようになっている。
女性主人公ナシで描けば「あんスタ」ヲタクは喜ぶ人が多いかもしれないが、内輪受け要素が高くなってわかりづらくはある。ゲームと同じ女性主人公を据えて描けばわかりやすく、アニメからゲームを始めるユーザーも取り込めるはずだ。運営側としては、これからさらにユーザーを増やしたいところだろう。
おそらく運営側の希望通りに、アニメきっかけでユーザーは増える可能性が高い。だが、アニメ化にはところどころ可笑しくて怪しい部分もあった。ゲームでもコミカライズでも男の子たちがライブによる対決を行っているが、そのシーンが音楽ライブというよりも格闘技バトルのよう。パンチを繰り出したり回し蹴りをしたり、手に持つギターを盾にしたり武器にしたり、楽器を扱うキャラとしてそれはどうよ?と思うほどの勢い。かなり無法地帯となっていて見ていて面白い。
おまけにバトルに現れるヤンキー顔で男らしいキャラクターの鬼龍九郎が、昼ご飯後とあって口周りがナポリタンのケチャップだらけ。いや、コミカライズでもセリフではちょこっとそんなくだりがあるにはあったが、絵にはなかったし、こんなに誇張されると笑うしかない。
こんな描き方をするアニメシリーズの監督がどなたかというと、あのキテレツなアニメとして知られる「キンプリ」こと「KING OF PRISM」シリーズの菱田正和だ。ああ、察してしまう。真面目な顔をしながらギャグ要素も散りばめるのが得意な監督だ。転校生のあんずも登場することになって「あんスタ」ヲタクたちはピリピリした空気が流れていたように感じていたが、アニメシリーズがなんだか笑えるところがあってホッとさせられた。
今後はいったいどんなシーンを見せてくれるだろう。キャラクターたちの新しい一面も見ることができるかもしれない。個人的には、あんずのことなんてどうでもよくなってしまうぐらいに、「あんスタ」ヲタクも笑えるキテレツな作品になってくれらばいいのになぁと密かに願っている。(文:入江奈々/ライター)
「あんさんぶるスターズ」は放送中
入江奈々(いりえ・なな)
兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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