【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第2回】
「いちばん好きな映画は何ですか?」
そう質問されて即答できる人はあまりいないと思う。
なぜか。
その理由はもう分かってる。
それは、試されている気がするから。
センスを問われているような気がするから。
迂闊な解答をしたときにこちらに向けられる失望と落胆が入り雑じったあの眼差し。
あの眼差しを向けられると、全人格を否定されたような、ひとつ下のグループに格下げされたような気になる。
もちろんそんなことはないのかもしれないが、こちらの自意識がそんな思いにさせる。
そんな思いをせずに、同時に相手にもさせずに、誰かと映画について楽しく会話をしたいとき必ずこう聞くことにしている。
・“生まれて初めて”の感動に心震わせた頃の鯉八少年写真はコチラ!
「4番目に好きな映画は何ですか?」
これなら気取らずに構えずに本当に好きな映画を口にしてくれる。
たとえその映画にピンとこなくても、4番目だからと言い訳できるわけだ。
我ながらいい質問だと思う。
「生まれてはじめて映画館で観た作品は何ですか?」
これは先ほどの質問ほど緊張するわけではないが、これまでの人生をどう歩んできたかを問われているような気がする。
映画や文化にどれくらい関わってきたかが重要なのだ。
いつの時代もぽっと出の新人を温かく迎えてくれるほど社会は甘くない。
育ってきた環境や、さらには親のセンスや経済力まで問われる実はかなり深度のある質問なのだ。
『劇場版ドラえもん』か『東映まんがまつり』という解答は社会人としていかがなものか。
初恋はいつだと飲み屋で盛り上がってるときに、幼稚園の頃です!と答えるのと似ている。
口には出さずニコニコしながら聞いてはいるが、そういうことじゃないんだよ!と腹のなかでしっかりバツをつけている。
社会は厳しいのだ。
忘れもしない1991年のお正月。
当時10才。小学3年生。
ぼくの住む鹿児島大隅半島にある鹿屋市には当時映画館はもうなかったと記憶している。
高度経済成長の1960年頃には街の映画館は賑わい、よく西部劇を観たと祖父は話していた。
ところが90年代に入ると家庭用のビデオデッキが普及しており、田舎の映画館は客が入らず閉館を余儀なくされていた。
盆と正月に祖父母のいる桜島に家族そろって出掛けるのだが、その年の正月、父が子どもたちは退屈だろうからと、4つ上の兄と共にフェリーに乗って鹿児島市内の映画館に行かせてくれた。
市内は都会だ。携帯もない時代、すれ違う人に道を尋ねながらバスや市電を乗り継いでやっとの思いでたどり着いた。
映画館は超満員。
まだまだ正月映画は娯楽の王様だった。
活気に満ち溢れ、立ち見客の間をすり抜けて通路に腰掛けた。
消防法もまだ緩かったのだろう、おおらかな時代だ。
コカ・コーラもポップコーンも映画館で観る映画もはじめて。
すべてが夢の中。
『ニュー・シネマ・パラダイス』
そんな現実と物語が絡み合い、味わったことのない感動に心が震えました。
と答えることにしている。
でも、本当に生まれてはじめて映画館で観た映画は『トータル・リコール』、
主演シュワルツネッガー。
最近はニューシネマパラダイスよりもシュワちゃんのほうがハイセンスかなと思うようになったので、質問されたら答えに迷ってる。
ちなみに『ドラえもん のび太と鉄人兵団』は今観てもすんごい面白い!
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
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