『フュード/確執 カポーティ vs スワンたち』でキーパーソンを演じる
【この俳優に注目】デミ・ムーア
「ティファニーで朝食を」や「冷血」などを手がけた作家トルーマン・カポーティと、ニューヨークのセレブ女性たちの対立を描く全8話のシリーズ『フュード/確執 カポーティ vs スワンたち』の配信が始まった。1960~70年代のニューヨークで、巧みな話術で上流社会の人気者でもあったカポーティは富と権力のある夫を持つセレブ妻たちを“スワン”と呼んで親しく交流していた。噂話とパーティに明け暮れ、スワンたちは心を許したカポーティにだけは秘密や悩みを打ち明けていたのだが、カポーティはそれをネタに新作を執筆。信頼を裏切られたスワンたちは結託し、復讐を企てる。
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ライアン・マーフィが製作総指揮、ガス・ヴァン・サントが監督を務め、実話をもとに描く本作で注目すべきはなんといっても、富と美貌に恵まれたスワンたちを演じる豪華な顔ぶれ。1980~90年代に人気を博し、今も活躍を続けるスターたち――ナオミ・ワッツ、ダイアン・レイン、クロエ・セヴィニーらが、何不自由ない生活を送りながらも様々な不安を抱えた実在の女性たちに扮している。
そして、彼女たちとカポーティの確執の原因となるキーパーソン、アン・ウッドワードを演じるのは、1980年代から90年代にかけてハリウッドでトップスターの1人として君臨したデミ・ムーアだ。
『セント・エルモス・ファイアー』で大ブレイク、人気俳優と婚約解消も
アンは、カポーティの新作小説で大富豪の夫を殺害したように描かれたと知って、自ら命を断つ。カポーティがスワンたちから聞き齧ったゴシップをふくらませ、実名でなくとも誰についてか明白な物語で夫殺しの汚名を着せられたアンが不幸な決断をしてしまうのは、昨今SNS上で起きている数々の悲劇を想起させる。同時に、映画スターとして大成功を収めながら私生活を興味本位で世間に消費され続けたデミ本人の実人生にも重なってくる。
1962年生まれのデミは16歳で高校を中退し、実家を離れてモデルの仕事を始めた。やがて俳優を志し、TVの昼ドラマに出演した後、大学を卒業したばかりの男女を描いた群像劇『セント・エルモス・ファイアー』(1985年)の大ヒットでブレイクを果たす。ブラットパック(当時、青春映画で活躍した若手スターたち)の1人として脚光を浴び、同作で共演したエミリオ・エステベスと婚約、エミリオが監督・主演を務めた『ウィズダム/夢のかけら』(1987年)で共演し、公私ともに良きパートナーだったが、1987年に破局してしまう。
ブルース・ウィリスと電撃婚、妊婦ヌードの先駆け
同年11月、デミはブルース・ウィリスと結婚した。実は7月にエミリオの主演作『張り込み』(1987年)の試写会で2人は出会い、直後にデミはエミリオとの婚約を解消、交際4ヵ月でブルースとラスベガスで衝動的に結婚した。2019年に発表した回想録「Inside Out(原題)」によると、カジノでギャンブル中に「結婚しようか」と突然ブルースにプロポーズされたという。2人の間には娘3人が生まれ、次女を妊娠中の1991年、デミは妊娠7ヵ月のマタニティ・ヌードで「ヴァニティ・フェア」誌の表紙を飾った。
デミはその前年、年間興行収入で1位となった『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年)で、殺されてゴーストとなった恋人に守られるヒロインを演じ、ヒット作に欠かせないスターとしての地位を揺るぎないものにしたばかり。そのタイミングで発表した大胆な写真は賛否両論巻き起こる社会現象となったが、結果として今や多くのセレブが発表する妊婦ヌードの先駆けとなった。
90年代には女性として当時の史上最高額の出演料に
1991年7月の出産から3ヵ月後、デミは『ア・フュー・グッドメン』(1992年)の撮影に入った。トム・クルーズ扮する主人公と共に、米軍基地で起きた殺人事件の裁判に臨む海軍法務官を演じている。女性というだけで軽視され続ける理不尽さを仕事で跳ね返す強い姿が印象的だ。
30代になった彼女はキャリアも絶頂期を迎え、様々な物語で個性的な女性像を見せた。大金で夫婦愛が試される『幸福の条件』(1993年)、女性上司によるハラスメントがテーマの『ディスクロージャー』(1994年)、髪を剃り上げて役になり切った『G.I.ジェーン』(1997年)など話題作や問題作に出演し続け、1996年にはストリッパーを演じた『素顔のままで』で1250万ドルという、女性として当時の史上最高額の出演料を得た。
40歳のビキニ姿が大きな話題に
一方、実生活では1998年にブルースとの破局を迎え、2000年に離婚した。ハリウッドの大物カップルは夫婦としては終わったが、娘たちの親として協力し合う長い友情が始まった。デミは回想録で「私たちは2人の関係の核心、私たちの家族を作った核心を、娘たちに両親の愛情と支えのある環境を与える新しいものへと移行することができた」「私たちは離婚前よりも絆が深まったと感じた」と綴っている。
シングルマザーになった2000年以降は以前より仕事をセーブするようになったが、2003年に『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』でビキニ姿を披露して大きな話題を集めた。撮影時は40歳。今なら誰も驚かないが、二十数年前はこの年齢で完ぺきな体型はあり得ないとされ、出演する際に高額を投資して美容整形手術をしたと憶測を呼んだ。後年に本人が噂を否定したが、体型にまつわる苦悩がなかったわけではない。回想録では、次女出産直後の『ア・フュー・グッドメン』出演時に体型を元に戻すために過激なエクササイズに取り組んだ結果、その後も長い間、さらにハードなトレーニングやダイエットに執着するようになったと記している。
16歳年下の人気俳優と再婚、元夫とも良好な関係を築く
同じ頃、デミは友人同士の食事会でアシュトン・カッチャーと出会い、2005年に結婚した。16歳下でキャリアの面でも格差婚と見做されたが、娘たちやブルースも交えて休暇を過ごすなど、新しい家族のあり方を見せて話題となった。2009年にブルースが再婚しても関係は変わらず、ひとつの大きな家族となっていたが、アシュトンの浮気が発覚したのを機に2011年に破局。俳優業と並行して実業家として大成功を収めたアシュトンと財産をめぐって争い、2013年に離婚した。
認知症のブルースを支え続ける
2019年に回想録を発表し、複雑な家庭環境や壮絶な母との関係などを詳らかにしたことで何か吹っ切れたようだ。2020年にパンデミックが始まると、娘たちやブルース、彼の再婚相手やその子どもたちも交えて隔離期間を過ごし、2023年にブルースが前頭側頭型認知症だと公表された前後からも、娘たちとともにブルースと家族を支えている。
離婚後に何度か男性と交際したが、2022年にスイス人のシェフと破局して以降はシングル生活を送っていて、彼女の関係者は「彼女は満たされるために男性を必要とはしていません」と「OK!」誌で語っている。
時代の数歩先を行く存在
その言葉通り、2024年のデミ・ムーアは俳優として新たにスタートを切ったようだ。結婚、離婚、家族との関係、さらには容姿についても、世間の好奇の目に晒され続けた半生は、『フュード~』のアン・ウッドワード役に生きている。無責任に噂を流す者たちに向けるアンの憤りは強烈な説得力に満ちている。
『フュード~』に続いて、今年5月に主演作『The Substance(原題)』で61歳にしてカンヌ国際映画祭デビューを飾った。50歳という年齢を理由に解雇されたスターが奇跡の物質(substance)によって、より若く美しい姿を得ることから始まるボディ・ホラーだという。これもまた、デミが長年苛まれた苦悩を投影させる題材だ。
悲しみも苦しみも、演じることで昇華させる。時代より数歩先を歩む先駆け的な存在であり続けるデミ・ムーアが迎えた新しい章がどんな展開を見せるのか、期待は募るばかりだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『フュード/確執 カポーティ vs スワンたち』
[放送]BS10 スターチャンネルにて放送、[配信]スターチャンネルEX
・[動画]ナオミ・ワッツ、ダイアン・レイン、デミ・ムーアら美しきセレブ妻たちの冷血な戦い/ドラマ『フュード/確執 カポーティ vs スワンたち』予告編
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