ソン・ジュンギが鍛え上げた肉体で悪の男を熱演、新鋭ホン・サビンの名演に引き込まれる!
注目の韓国発ノワール映画『このろくでもない世界で』
【週末シネマ】昨年の第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品に選ばれて以降、数々の映画祭で賞を総なめにした韓国発ノワール映画『このろくでもない世界で』。初主演のホン・サビンのフレッシュな魅力と共に、話題作ドラマで様々な顔を見せてくれるソン・ジュンギが鍛え上げた肉体に生々しい傷を刻んだ悪の男になりきった姿に圧倒される。
・ソン・ジュンギ、初のカンヌ行き果たし「大きなプレゼントをもらった気分」『このろくでもない世界で』インタビューで思い語る
18歳のヨンギュ(ホン・サビン)は、継父のDVに耐えながら義理の妹ハヤン(キム・ヒョンソ)を守るために奮闘するが、ある日校内で暴力事件を起こして高校を停学に。その上、多額の示談金を請求されてしまう。顔の傷のせいでアルバイト先もクビになったヨンギュは、地元の犯罪組織のリーダー、チゴン(ソン・ジュンギ)を頼るしかなかった。仕事という名の”盗み“を働き、徐々にチゴンにも認められていくヨンギュだったが、ある日、組織の非常な掟に背いてしまい……。
冒頭からなかなか姿を現さない継父が、影や音だけで少しずつ存在感を表していくのが怖い。その度に、ヨンギュとハヤンが震え上がるのだが、彼らの演技を見ているだけで、こちらまで恐怖感がこみあげてくる。ヨンギュがハヤンに「お前は本当の娘だから何もされない」というセリフの通り、継父は日頃のストレスを、ヨンギュを殴ることで解消しているということが分かってくる。
顔に酷い傷のできたヨンギュは……!?
ハヤンを守るために校内の男子生徒を大きい石で殴って問題になり、示談金を請求されたヨンギュ。そのことで継父の怒りを買ってしまい、新品のバッドで殴られ、転んだはずみに左目の下に傷ができてしまう。アルバイト先もクビになったヨンギュは、チゴンのいる犯罪組織に入るしか居場所がなくなってしまった。「顔の傷は武器になる」というチゴンのセリフに、心なしか安堵感を覚えるヨンギュの表情が切ない。
チゴンは敵か味方か!?
真面目に任務を遂行するため、犯罪組織の中でもすぐに頭角を表すヨンギュだったが、その優しさがアダとなり、掟破りをしてしまう。そんなある日、チゴンと手下の男がヨンギュの家に土足で上がってくる。家の中をジロジロと見る目つきも怖いが、「一度組織に入ったらもう絶対に逃げられない」という暗黙のルールを押し付けられているようで、背筋が凍り付く思いだった。
初主演のホン・サビンが葛藤を見事に表現
真面目に任務を遂行するヨンギュは犯罪組織の中でも頭角を表していき、“重要な任務”を命じられるが……。本来なら、心を鬼にして任務を遂行するしかないのかもしれないが、とことん悪になり切れないヨンギュ。そんな彼の葛藤を表現する、今回初主演であるホン・サビンのナチュラルな演技に思わず見入ってしまう。そして、一見、救いようのない世界にも思えるが、一筋の希望も垣間見える。今いる世界で精一杯生き抜くしかないのだ、と背中を押された気がした。(文:渡邉啓子/ライター)
『このろくでもない世界で』は、2024年7月26日より全国公開中。
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