復讐を企てるセレブ妻を演じて、初のエミー賞主演女優賞候補に
【この俳優に注目】ナオミ・ワッツ
アカデミー主演女優賞に2度ノミネートされ、日本映画『リング』のリメイク『ザ・リング』シリーズやダイアナ元妃を演じた『ダイアナ』など、多くの作品で活躍してきたナオミ・ワッツ。9月発表の第76回エミー賞では『フュード/確執 カポーティ vs スワンたち』で初の主演女優賞候補となった。
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親友だった天才作家トルーマン・カポーティに裏切られ、復讐を企てるセレブ妻たちの中心人物であるTV局の会長夫人ベイブ・ペイリーを演じる彼女は、50代女性の風格ある美しさと内に隠した不安や焦燥感の対比を絶妙に演じている。
美貌と演技力を誇る大人のスターとして揺るぎない存在のナオミだが、名前が広く知られるようになったのは実は30代になってから。イギリス生まれ、オーストラリア育ちの彼女がハリウッドで成功をつかむまでの道のりは決して平坦ではなかった。
親友ニコール・キッドマンに励まされ
ナオミは1968年9月28日、ピンク・フロイドのサウンドエンジニアだった父と衣装デザイナーの母の間に生まれたが、4歳で両親は離婚し、7歳で父親が早逝。14歳で母方の祖母の出身地であるオーストラリアに家族で移住した。シドニーで暮らし始めたナオミは母親の勧めで演技を学び始めた。15歳でTVコマーシャルのオーディションを受けに行った際に知り合ったのがニコール・キッドマンだ。
18歳になると、モデルとして日本に移住したが、オーディションに落ち続けて数ヵ月で帰国し、雑誌編集部のアシスタントとして働き始めるが、最終的に演技の道へと戻り、オーストラリアのTVドラマやCM、インディーズ映画に出演した。
なかなかブレイクできずにいたナオミが拠点をハリウッドに移すきっかけとなったのは、1990年の『ニコール・キッドマンの恋愛天国』での共演で意気投合し、ひと足さきにハリウッドで成功し、トム・クルーズと結婚した親友のニコールだ。彼女にエージェントを紹介してもらい、小さな役で映画出演しながらオーストラリアと行き来していたが、ケヴィン・コスナー主演の『ポストマン』(1997年)やキアヌ・リーヴス主演の『ディアボロス/悪魔の扉』(1997年)など大作のオーディションに落ちる時期が長く続いた。そんな苦しい時もニコールはそばで励まし続けてくれたという。
デヴィッド・リンチ監督との出会いで一躍注目の女優に
突然チャンスが訪れたのは2000年のこと。デヴィッド・リンチ監督が『マルホランド・ドライブ』の主演にナオミを抜擢したのだ。彼女の出演作を見ることなく、オーディション用に送られたヘッドショットだけで「とてつもない才能と美しい魂、知性、さまざまな役を演じる可能性を見た」として、リンチ監督は彼女の起用を決断した。
映画スターになる夢を抱いてハリウッドにやってきたナイーブな若い女性がミステリアスな世界に引きずり込まれていく物語は、ナオミの歩みと重なるものがある。同作が2001年のカンヌ国際映画祭で上映されるや、ナオミのキャリアは劇的に変わった。全米映画批評家協会賞とシカゴ批評家協会賞で主演女優賞に輝き、続いて世界でヒットした日本映画『リング』のリメイク『ザ・リング』(2002年)でも主演を務め、大ヒットを記録した。続編『ザ・リング2』では日本の中田秀夫監督と組んでいる。
さらに2003年には『21グラム』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされるなど、名実ともに成功を確かなものとした。
『キング・コング』(2005年)など大作でヒロインを演じる一方、デヴィッド・クローネンバーグ(『イースタン・プロミス』2007年)やミヒャエル・ハネケ(『ファニーゲーム U.S.A.』2008年)、トム・ティクヴァ(『ザ・バンク 堕ちた巨像』2009年)といった作家性の強い監督たちの作品にも数多く出演し、2012年には、2004年のスマトラ沖地震による津波に巻き込まれた一家の実話を映画化した『インポッシブル』で2度目のアカデミー主演女優賞ノミネートを得た。
2児をもうけて離別後、2023年にビリー・クラダップと結婚
私生活では、『ケリー・ザ・ギャング』(2003年)で共演した11歳下の故ヒース・レジャーと2年間交際した後、2005年に『ペインテッド・ヴェール~ある貴婦人の過ち~』(2006年)で共演したリーヴ・シュレイバーとパートナー関係になり、2児をもうけたが、2016年に破局。2017年からNetflixのシリーズ『ジプシー』で共演したビリー・クラダップと交際し、2023年6月に結婚。ニコールやジャスティン・セローなど親しい友人も招いて1年後にメキシコで挙式した。
更年期についてもオープンに語る
俳優の仕事と並行して、近年の彼女が深く関わっているのが更年期との向き合い方について。実は妊活をしていた36歳の時に更年期の症状が現れたというナオミは、当時は悩みを誰とも共有できず、孤独や不安を感じていたという。『フュード/確執~』で演じたベイブも劇中でそんな一面をのぞかせる。
自分の身体と心の変化について話すことの重要性を痛感したナオミは自身の経験を公にすることで、更年期についての会話をタブー視せずにオープンに話し合うべきだと話している。
歳を重ねて公私ともに充実
子どもたちが幼かった頃はかなり厳重にプライバシーを守っていたが、今ではSNSに10代に成長した彼らが登場したり、完全オフ日にノーメイク&フィルターなしでくつろぐ様子もアップ。歳を重ねて、ますます仕事も私生活も充実し、きっと今が一番幸せなはずと思わせる。だからこそ逆に、ベイブの悲しみや怒りを説得力あふれる演技で表現できるのではないだろうか。
ブレイク当時は30代の遅咲きと見なされたが、そのキャリアは今なお輝き続けている。主人公の母親やおば、姉ではない、大人の女性として物語の主役になる。ほんの少し前までのハリウッドでは一笑に付されていた道をしなやかに歩むナオミ・ワッツは多くのインスピレーションを与えている。(文:冨永由紀/映画ライター)
『フュード/確執 カポーティ vs スワンたち』
[放送]BS10 スターチャンネルにて放送、[配信]スターチャンネルEX
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