凄まじいパワー! ホアキン版“ジョーカー”とレディー・ガガの奇跡のコンビネーション
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社会現象から5年『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
【週末シネマ】稀代のヴィラン誕生を描いて世界中で大ヒットを記録し、ホアキン・フェニックスがアカデミー主演男優賞を受賞した『ジョーカー』(2019年)から5年、待望の続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が公開された。それにしても、前作でトッド・フィリップス監督もフェニックスも共感を誘わないキャラクターを描こうとしたにもかかわらず、現実には主人公に自己投影して熱狂する者が後を絶たなかったのは何という皮肉だろうか。満を持しての続編はそんな社会現象に対する応答として、とてつもない強さを帯びている。
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続編に欠かせなかったレディー・ガガという才能
続編の製作決定が発表された際、一体何をどう描くのかと個人的に疑問を抱いた。観客はジョーカー/アーサー・フレックが精神的に病んでいること、彼の生い立ちや不気味な笑いの理由も知っている。もはや我々が驚くようなことは何も出てこないのでは? という懸念を覆したのが、アーサーの前に現れる謎の女性リーという存在だ。レディー・ガガという才能が、フィリップス&フェニックス版“ジョーカー”と同時代に存在したというタイミングは神の配剤と言いたくなるほど、フェニックスとのコンビネーションが素晴らしい。
物語は、前作でコメディアンを夢見る心優しい男から凶悪な犯罪者となったアーサーの2年後を描く。彼はアーカム精神病院に収容され、治療を受けながら裁判を待つ身だ。大量の薬を服用し、かつての狂気やカリスマ性のかけらもない従順で無表情な彼を、看守や囚人たちが恐れることはない。そんなアーサーが病院内で出会うのが同じ患者のリーだ。彼女は自らの境遇を打ち明けて共感を誘い、ジョーカーへの憧れも語る。別人のように変わり果てていたアーサーは彼女に勇気づけられ、次第にジョーカーという人格を蘇らせていく。
歌い踊るシーンが賛否を呼んでいるが…
そこからは、let the music do the talking(音楽に語らせろ)とでも表現すべき展開だ。病院内の音楽セラピーで出会った彼らは、音楽に代弁させながらラブストーリーを紡いでいく。人気者になりたかったアーサーと、一緒に夢を叶える相棒となったリーは「フォリ・ア・ドゥ(二人狂い)」のタイトル通り、妄想の中で歌って踊るエンターテイナーとなる。この一連の描写は先に公開された地域で賛否両論を引き起こしているが、歌唱力はもちろん、演技においても類まれな表現力を発揮するガガを起用した意義がここにある。
流れるのは往年のミュージカルの名曲の数々からカーペンターズやビージーズのヒット曲まで、どれも陽気なものばかり。莫大な製作費を注ぎ込んで丹念に作られたゴージャスな悪夢のレヴューは圧巻だ。ドレスアップしたリーは禍々しくも華麗で、ジョーカーの身のこなしは堂々として優雅でさえある。そこはカラフルでハッピーな世界。だが、常に暗い影がしのび寄る。
前作以上の怪演を見せるホアキン・フェニックス
一方、現実の世界ではアーサーの裁判が始まる。被告人アーサー・フレックが闇のない白日に曝される法廷劇は、容赦ない事実を次々と明らかにしていく。主人公は2つの人格で引き裂かれ、ジョーカーの物語はさらに混迷を深めていく。本作で再び痩せ細った貧弱な体躯を作り、見るだけで胸が掻きむしられるような悲しい高笑いを響かせ、毒々しいメイクとスーツで狂気を放つフェニックスは前作以上に鬼気迫る怪演だ。
ジョーカーとは誰なのか、何なのか。劇中では思惑を持った弁護士やTV番組の司会者がアーサーに詰め寄る。外の世界にも、自分の求める答えを期待する崇拝者が群がっている。まるで物語の中の大衆と本作の観客が一体化するかのようで、現実と虚構が交錯する本作の核心を表している。
ジョーカーとは誰なのか?
アメリカの業界誌「The Hollywood Reporter」によると、この続編のアイディアはフェニックスが夢の中で思いついたものだという。なるほど、本作のテーマは2010年の主演作『容疑者、ホアキン・フェニックス』との共通点も見出せる。セレブに対する大衆の勝手な期待を逆手に取ったフェイク・ドキュメンタリーは、現実と虚構が渾然一体となった内容が物議を醸したが、発想に表現が追いつていないもどかしさがあった。あの時に彼が伝えたかったものを、ジョーカーというキャラクターを借りて再び世に問うているのかもしれない。
誰の代弁者でもない、ジョーカーとは誰なのか。いや、誰でもいいんだろう、本当は。作者からそんな挑発を突きつけられたような凄まじいパワーに圧倒される。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は、2024年10月11日より全国公開中。
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