親代わりとなり妹を育てた兄、結婚を控えた妹
【週末シネマ】両親を早くに亡くし、二人きりで生きてきた大阪の兄妹の物語だ。兄の俊樹(鈴木亮平)は、幼い頃に事故死した父に代わって妹・フミ子(有村架純)を守り続けてきた。10代で母を亡くしてからは、文字通り親代わりとなって養い育てた妹は、もうすぐ結婚する。そんなある日、フミ子が兄に黙ってある行動をとったことから、二人の子ども時代に起きた不思議な出来事と、その後の顛末が明らかになっていく。
・鈴木亮平「大切な人との記憶を思い出す作品」──映画『花まんま』プレミア試写会イベント
本作は、朱川湊人の直木賞受賞作「花まんま」の表題短編を、大阪出身の前田哲監督(『そして、バトンは渡された』『九十歳。何がめでたい』)が映画化したもの。主要キャストの大半を関西出身の俳優で固めている。原作は昭和40年代の東大阪を舞台に小学生だった兄妹を描き、結末で成人したフミ子が結婚すると簡潔にふれる構成だが、映画は時代を現代に移し、フミ子の結婚を間近に控えた兄妹の物語として描かれる。

(C) 2025「花まんま」製作委員会
平穏な日々を送る二人だが、幼い頃にフミ子が「自分には別の女性の記憶がある」と言い出したことがあった。戸惑いながらも妹の言葉を受けとめた俊樹は、彼女とともにある場所を訪ね、そこである家族と出会う。それは前世の記憶をモチーフにしたファンタジーなのだが、兄妹とその周囲のごく日常的なドラマの中に違和感なく溶け込み、詳細は物語が進むにつれて徐々に明かされていく。
関西出身の俳優たちによる大阪弁の自然な響きが心地よい
完全なる父親目線で妹に接し、働き者で気のいい俊樹を演じる鈴木は、兄としての責任感と気負い、軽口の裏に隠した不安など、多面的で愛すべきキャラクターを見事に体現。幼い頃から自身の中に20代女性の記憶を抱えてきたフミ子を演じる有村も、その葛藤と、兄との気のおけないやりとりを通して気丈な明るさをいきいきと表現する。

(C) 2025「花まんま」製作委員会
大阪弁の響きの自然さは、関西出身の俳優たちによるキャスティングが大きく寄与している。関西を舞台にした作品は多いが、ネイティブでない俳優が演じると微妙な違和感が残ったり、逆に完璧すぎて力みを感じるこがある。その点、本作は絶妙な力の抜け具合で、さりげない行動の裏にある繊細な感情や心の機微までも温かく伝わる。関東に生まれ育った者としては、大阪を訪ねた時に感じる独特のやわらかさを思い出した。

(C) 2025「花まんま」製作委員会
クライマックスでの兄のスピーチは圧巻
実父の記憶を持たない少女のフミ子と娘を亡くした男性(酒向芳)との交流、そして「花まんま」とは何かを導き出す描写もまた、切なくも美しい。スピリチュアルな要素とウェルメイドな人情喜劇が自然に並び立ち、素直に物語の世界に引き込まれ、登場人物たちとともに泣き笑いできる。クライマックスとなる結婚式での俊樹のスピーチは圧巻だ。思いがあふれる言葉に心を動かされた嘘のない感情が、エキストラの1人1人に至るまで、その空間にいる全員から伝わってくる。
思い出したのは「記憶は愛である」という言葉
この作品を観て、2020年に亡くなった名匠・森﨑東監督の著書『頭は一つずつ配給されている』の中にあった「記憶は愛である」という言葉を思い出した。イギリスの劇作家の言葉だというが、それこそが『花まんま』で描かれていることではないかと思う。生きていれば、誰もが悲しみを経験する。そこで救いになるのは、温かな記憶ではないか。森﨑監督は「愛のない記憶は失われる」とも綴っている。たとえ一方通行になったとしても、記憶があれば愛は決して失われないのだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『花まんま』は2025年4月25日より全国公開中。
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