2020年は、昭和20年(1945年)に終戦を迎えてから75年という節目の年となる。そんな中、7月から8月にかけて、「黒い雨」訴訟と呼ばれる裁判のニュースが報じられた。「黒い雨」訴訟とは、1945年8月6日の広島原爆投下の直後に、放射性物質を含んだ雨(黒い雨)を浴びて、健康損害を受けたにも関わらず、住んでいた地域が指定地域外だったため、被爆者として認められなかった住民たちが訴えた裁判のこと。今年7月29日に広島地裁が下した判決は、住民たちの訴えを認め、原告全員に被爆者健康手帳を交付するよう求めたものだったが、広島県と広島市はそれを受け入れず、8月12日に控訴することを表明した。戦後75年たっても、まだ戦争の傷痕が残っていることを感じさせられるニュースだった。
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「黒い雨」といえば、今村昌平監督が田中好子主演で撮った『黒い雨』(1989年)という映画があった。原作は井伏鱒二の同名小説で、原爆投下後の黒い雨を浴びてしまったために、その後の人生を狂わされてしまった若き女性の姿をモノクロの画面で描き出した作品だ。原爆投下直後の、焼け野原となった広島の風景は目を背けたくなるような迫力だが、生き残った彼女は戦争が終わった後も、周囲の偏見や、後遺症の恐怖に苦しめられ、精神的に追い詰められることとなる。戦争はどこまで人々を苦しめるのか、ということを考えさせられる1本だ。
広島で被ばくし、その後、必死の思いで逃げ帰った故郷・長崎で再び被ばくするという「二重被爆者」として、原爆の悲惨さを訴え続けた山口彊(つとむ)さんの姿を、再現フィルムをまじえて追ったドキュメンタリー『二重被爆~語り部・山口彊の遺言』がNetflixで配信されている。時折、涙を流しながら原爆の悲惨さをせつせつと語る山口さんの話は、日本人だけでなく、アメリカの人たちの心にも訴えかける。戦後75年たち、山口さんを含め、当時を知る人たちが次々と亡くなっていってしまっている。そんな中だからこそ、山口さんの言葉にしっかりと耳を傾けたい。
イギリスの製作会社 October Films が、原爆問題に切り込んだドキュメンタリー映画が、Hulu×ヒストリーチャンネル共同製作となる『ヒロシマ・ナガサキ:75年前の真実』だ。「原爆を産み出したマンハッタン計画を遂行する研究者たちの焦燥や葛藤」が当事者たちの肉声と実録映像をのみ通じて語られるアメリカ側の視点と、「原爆投下前の日本の日常風景、そして被爆直後の焼け野原と化した広島と長崎の記録映像と被爆者たちの声」で語られる日本側の視点と、日米双方を360度の視点を交えて、時系列に沿って構成。なぜこんな悲劇がもたらされたのか。この悲劇を止めることはできなかったのか。両国の食い違う視点を目の当たりにし、いろいろと考えさせられる。(文:壬生智裕/映画ライター)
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