有名監督や音響技術者が語る音へのこだわりと仕事愛! 知られざる映画音響のディープな世界
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映画を見ていて、壮大な映像に心を奪われることは多々ある。手つかずの大自然の風景だったり、迫力あるアクション・シーンや感情を揺さぶる俳優の名演技。こうした映像が全くの無音だったら、どんな印象を与えるだろうか? 『ようこそ映画音響の世界へ』ではSF映画の一場面を無音状態で数秒映すだけで、その答えを出す。私たちは映画を“聴く”ことによって、楽しんでいるのだ。
・音は映像の添え物じゃない! ルーカスも証言する映画音響の重要度、その歴史と裏側に迫る
そもそも無声映画の時代から、上映時には楽団による生演奏や弁士による語りが入り、映像を盛り上げる効果としての音は映画に欠かせないものだった。本作は1927年のトーキー映画誕生以来、今も進化を続ける映画音響の歴史を辿るドキュメンタリーだ。
映画を彩る様々な音は、どのように作られるのか。フランシス・フォード・コッポラ監督との仕事で知られ、『地獄の黙示録』で音響(サウンド)デザイナーという肩書を作り出したウォルター・マーチ、『スター・ウォーズ』シリーズでライトセーバーの音やチューバッカの鳴き声を考案したベン・バート、『ジュラシック・パーク』『タイタニック』『プライベート・ライアン』などを手がけたゲイリー・ライドストロームといったアカデミー賞受賞経験のある大御所の音響技術者たちを中心に、ジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・リンチ、ソフィア・コッポラ、クリストファー・ノーラン、アン・リー、ライアン・クーグラーといった映画監督、多くの音響技術者たちが登場し、エジソンによる蓄音器の発明から最新のテクニックに至るまでの音響技術史、仕事愛などを語る。
『トップガン』の戦闘機飛行音は実際のジェット機の音だけでは物足りず、ある音を足して作り上げた逸話、1933年製作の『キング・コング』に登場する架空の動物の声、『ジュラシック・パーク』の恐竜の声などの制作秘話はもちろんのこと、非現実的ではない日常の場面をいかにリアルに伝えるかに凝らされた工夫、『スター誕生』(76年)で製作総指揮と主演を務めたバーブラ・ストライサンドの熱望でステレオ上映が実現し、映画館の音響システムが向上した話なども興味深い。
監督は、自身も音響デザイナー、音響編集者であるミッジ・コスティン。同職の女性が少なかった90年代からジョニー・デップ主演の『クライ・ベイビー』(90年)、『ザ・ロック』(96年)、『アルマゲドン』(98年)などを手がけ、現在は南カリフォルニア大学映画芸術学校で教鞭を取っている。現在は彼女に続いて女性の音響技術者の活躍もめざましく、カレン・ベイカー・ランダーズ(『007 スカイフォール』)やローラ・ハーシュバーグ(『インセプション』)などアカデミー賞受賞者も輩出している。
映像にふさわしい音を追求する。その一点で結ばれた創造の世界は、人種も性別も関係ない才能の輪で構成されていることを伝えると同時に、これから映画を見て、聴く楽しみ方を教えてくれる1作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ようこそ映画音響の世界へ』は8月28日より公開中
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