関ジャニ∞の大倉忠義と成田凌が恋人役で共演!
男同士の狂おしい恋愛を描き、BL好きのバイブルと言われるほど高い支持を得るコミックを実写映画化した『窮鼠はチーズの夢を見る』が公開された。主演はなんと関ジャニ∞の大倉忠義とイケメン若手俳優の成田凌だ。
原作者は「失恋ショコラティエ」や「脳内ポイズンベリー」など映像化された作品も多い人気漫画家の水城せとな。原作はBLレーベルの作品ではないが、第1話掲載から16年ほど経った今もBLランキングに入るほどBL好きから高い評価を受けている。実写映画化が発表になって注目される以前から、読み継がれて不動の人気を誇っていた。
この作品が実写化される、しかもジャニーズ主演で…! と映画化が発表された時はBL好き界隈が騒然となったことは言うまでもない。これまでもBL系作品が実写映画化されることは珍しくなかったが、キャストは駆け出しの新進俳優などが多くて、ここまでいわゆる有名どころではなかった。
BLコミックの「リスタートはただいまのあとで」は古川雄輝と竜星涼の共演で実写映画化されて公開中だが、『窮鼠~』の実写映画化決定の発表の方が先だった。それもジャニーズで映画化されるとは! BL系作品が注目されて読者も増やしてきているが、ここまでメジャーになるとはビックリしてしまう。世間の片隅で好きな人たちがこっそり楽しんできたものがいきなり明るみに引っ張り出されたような居心地の悪さまで感じてしまうほどだ。
関ジャニ∞の大倉忠義が演じるのは平凡なサラリーマンの大伴恭一だ。受け身的な恋愛を繰り返し、今はかわいい妻とまずまず平穏に暮らしている。彼の前に現れるのは成田凌が演じる大学時代の後輩・今ヶ瀬渉。探偵をしている今ヶ瀬は恭一の不倫の情報を握り、黙っている代わりに恭一の体を要求してくる。 戸惑いつつも優柔不断で流されやすい恭一は今ヶ瀬をきっぱりと拒否するわけでもなく、ズルズルと関係を持ってしまう。要は恭一と今ヶ瀬の再会で火がついた恋愛に、女性も絡んできてドロドロとした展開を見せるラブストーリーだ。
原作コミックは「窮鼠はチーズの夢を見る」と続編の「俎上の鯉は二度跳ねる」と2巻まであり、今回の映画版で続編も含めて映画化されている。2巻にもわたって描かれるのは大きな事件が起こるわけでもなく、好きだの好きじゃないだのうだうだとやり続ける恭一と今ヶ瀬の恋愛物語。男同士ではあるけど、珍しくもない世間でよくある恋愛の形。しかし、この原作コミックはさすが長らく支持を受けているだけあって、これが泣けるのだ!
愛しいクールビューティな執着ヤンデレなのだが…
重いだけでなくコミカルなところがあってシニカルな会話劇にはクスッと笑ってしまうが、恋愛の切なさ、苦しさ、みっともなさ、そして喜びがぎゅっと詰まっていて心にグサグサと刺さりまくる。恭一も今ヶ瀬も出てくる女性もみんな間違っていないし、正しくもない。どのキャラも読者の中にある一面を写し出していて、どのキャラのことも否定できずに理解できるから読んでいてとても辛くなってしまう。
特に今ヶ瀬。彼のしていることはとても滑稽で、ともすればイライラしてくるような言動ばかり。恭一のことが好きで好きで諦められなくて、恭一のすべてが欲しくてたまらなくて、でもすべてをもらうことはできなくて、それができないなら全部要らない、もう嫌いだ、でも無理! やっぱり好き? みたいな状態。きりきりまいしてジタバタともがき苦しんでいる。
冷静に見ると「何がしたいんだよー!」と肩を持って揺さぶりたくなるような今ヶ瀬だが、彼のことを笑うことはできない。自分の気持ちに自分が振り回されてしまう、恋愛のどうしようもなさは多かれ少なかれ誰もが共感できることだと思う。自分の中の恋愛脳を凝縮して具現化したようなキャラクターが今ヶ瀬という人物だ。嫌なんだけど嫌いになんてなれない、愛しい愛しい執着ヤンデレくんなのだ。
その今ヶ瀬を成田凌が演じているわけなのだが、成田のことを見ていて愛おしく思えるかというと残念ながらそんなことはなかった。クールビューティで触れるとこちらが傷つきそうな鋭さを持った精神的にヤバいやつ、というイメージはなく、恋愛の狂おしさが成田からは感じられなかった。自分の中にある恋愛の分身のように思えて共感するとまでは至らず、愛おしいほどではなかったのだ。
成田はもともとかわいげを持った俳優だと思うから、恭一を慕っている姿はかわいい。恭一のパンツの匂いを嗅いで履いちゃったりする。でも、そこに病んだ狂気は感じられなかったし、好きだけど嫌いだという相手も自分も振り回す様子もただ拗ねてる駄々っ子のようにしか見えなかった。年齢的に難しいかもしれないが、恭一役をやれば案外ハマったんじゃないかとも思う。
恭一役の大倉忠義はさほど違和感はないのだが、彼は逆に時々ドキッとさせる冷たい印象を与える表情をするので恭一が女にだらしないお人好しというよりは相手のことを考えない冷たい人のように感じてしまった。
躊躇せずに体も張って恋愛を表現
恭一は恭一で、優柔不断で流されてしまうどうしようもない男だが、それでも憎めなくてモテるのがわかる愛嬌あるキャラクターで、人のことを放って置けない情の深い人物だ。そこの部分をちゃんとにじませて欲しかったのだが、それが感じられずに冷たい人物に見えてしまった。
女性のキャラクターについても、恭一の元カノの夏生は気は強いけど懐の深い男気のある女性だが、映画版ではただアグレッシヴなヒール役に見えた。恭一の会社の後輩・たまきについても実は自身の事情を抱えた厚みのあるキャラクターで読者の共感を得るからこそ、彼らの三角関係が読んでいて辛いのだが、映画版のたまきはかわいくて健気な女の子という以上ものは感じられなかった。全体的に惜しいと言わざるを得ない。
監督は恋愛映画の名手として知られる『世界の中心で、愛をさけぶ』などの行定勲。看板倒れとならぬように恋愛の狂おしさが感じられるよう、もう少し頑張って欲しかった。ベッドシーンに関しては、原作にはたびたび登場して原作ファンの間では映画版でどのように描かれるか注目されていたが、そこは行定監督が気骨のあるところを見せて、朝チュンなどでお茶を濁してはいない。反対に下手にムードを煽り過ぎて見てる方が白けてしまうというようなこともなく、ありのままのベッドシーンを包み隠さず写し出している。
恭一と今ヶ瀬のベッドでの立場が変わるところもしっかり描かれている。今ヶ瀬との関係を認めることができずに、積極的な立場を取らなかった恭一が自分の意思を示すベッドシーンなので重要な部分なのだ。そこを懸念している原作ファンも少なからずいたので、描かれていたことは良かった。
ただ、それもそこまでの意味合いが伝わってこず、原作未読だと「あれ? さっきは逆じゃなかった?」程度にしか思わないかもしれない。心と体の関係は切っても切れないもので、だからこそ恋愛というものがこんなにも嬉しくて苦しいのだということがベッドシーンからも伝わってくると良かったのだが。
会話劇らしく言葉も痛いぐらいに刺さる名言が多いのだが、それも活かされていないのは勿体無かった。原作ファンがベスト名言として挙げることの多い、恭一の「これが恋愛なら 恋愛は業だ」もなく、モノローグだから仕方ないかもしれないが、あの言葉がないなら「窮鼠」じゃないと思う人もいるぐらいだろうからなんらかの形で入れて欲しかった。恋愛の業を感じることもなかったことがそもそも残念に思える。ラストは原作と違うことも言及しておこう。もうそのくらいちっぽけなことだと思うぐらい、原作と映画版は感触が違っているのだが。
と、筆者が原作への思い入れが強いためにどうしても映画版にネガティヴな感想を持ってしまった。原作未読の方なら、かわいくて切ない恋愛映画として楽しめるんじゃないだろうか。ジャニーズ映画と思って見るならベッドシーンも躊躇せずに頑張って文字通り体を張って恋愛を表現している。ジャニーズなのにあそこまでやるとは、と思う人もいるかもしれない。BL系の映画化としてはある意味エポックメイキングな作品になったと言えるだろう。映画版を見て原作が気になった人にはぜひ、原作コミックを読んで狂おしいまでの恋愛を体験して欲しい。(文:小野田礼/ライター)
『窮鼠はチーズの夢を見る』は、9月11日より、TOHOシネマズ 日比谷 ほか全国ロードショー
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