ヴェネチア国際映画祭が12日(現地時間)に閉幕、『スパイの妻』の黒沢清監督が銀獅子賞(監督賞)を受賞した。日本人の監督の同賞受賞は第60回(2003年)に『座頭市』で北野武監督が受賞して以来のことになる。
新型コロナウイルス感染拡大が収まらない状況下で、社会的距離確保のために会場には空席が設けられ、参加者は登壇時以外はマスク着用という例年とは全く違う光景のクロージング・セレモニーで、黒沢監督や出演者の蒼井優、高橋一生のヴェネチア入りも実現しなかったが、監督は東京から受賞のビデオメッセージを送った。
映画に集中! 今年のヴェネチア映画祭はパーティも私語もなしでコロナをシャットアウト
監督はヴェネチアに行けなかったことを残念に思うことを告げつつ、受賞について「長い間、監督に携わってきましたが、この年齢で喜ばしいプレゼントになりました」と語った。
『スパイの妻』は太平洋戦争開戦前夜の時代、神戸を舞台に貿易商の夫(高橋一生)が満州で恐ろしい国家機密を知り、夫と共にスパイの疑いをかけられた妻(蒼井優)の物語。高精細の撮影で、今年6月にNHK BS8Kで放送された同名ドラマの劇場版。10月16日より日本公開予定。
コンペティション部門審査員長のケイト・ブランシェットは「素晴らしい演出の作品が揃い、審査は非常に難しかったのですが、この結果は議論の余地のないものです」と絶賛。審査員でドイツの映画監督のクリスティアン・ペツォールト (『未来を乗り換えた男』)は「黒沢監督は、時代劇で、オペラのような映像とリズムで、とてもハードで政治的な内容を描いています。このような映画をここ数年見ることはなかった。1930年代、40年代の伝統を非常にモダンな形で描いています」と絶賛した。
作品賞にあたる金獅子賞は、クロエ・ジャオ監督、フランシス・マクドーマンド主演の『ノマドランド』(21年1月、日本公開)が受賞した。映画祭開会前から最有力候補と言われていた作品はジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド:漂流する高齢労働者たち」の映画化で、『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンドが炭鉱の街で新しい生活を見つける未亡人の主人公を演じる。ジャオ監督とマクドーマンドもヴェネチアには行けず、カリフォルニア州パサディナからメッセージビデオを送信。ラフな普段着の飾らない姿で受賞の喜びを伝えた。
作品賞の次点にあたる銀獅子審査員大賞はメキシコのミシェル・フランコ監督の『Nuevo Orden(原題)』が受賞。富裕な支配層の結婚式で起きる残忍なクーデターが描かれる。
女優賞は、『Pieces of a Woman(原題)』で自宅出産の際にわが子を亡くしてしまった女性を演じたヴァネッサ・カービーが受賞。『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)』のハンガリー出身のコルネル・ムンドルッツォ監督の初の英語作品で、『ハニーボーイ』のシャイア・ラブーフ共演。カービーは同じくコンペ部門に出品された『The World to Come(原題)』にも出演している。
男優賞はイタリア映画『Padrenosto(原題)』のピエルフランチェスコ・ファヴィーノが受賞。父親がテロリストに襲撃されるのを目撃してしまった10歳の少年の物語で、クラウディオ・ノーチェ監督の自伝的要素のある作品。ファヴィアーのは現在日本公開中の『シチリアーノ 裏切りの美学』に出演している。
コンペティション部門の受賞結果は以下の通り
金獅子賞(作品賞):『ノマドランド』/アメリカ
銀獅子審査員大賞:「Nuevo Orden(原題)」/メキシコ、フランス
銀獅子賞(監督賞):黒沢清『スパイの妻』/日本
男優賞: ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ『ADRENOSTRO(原題)』イタリア
女優賞:ヴァネッサ・カービー『Pieces of a Woman(原題)』/アメリカ
脚本賞:チャイタニヤ・タームハネー『The Disciple(原題)』/インド
審査員特別賞:『Dear Comrades(原題)』/ロシア
マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞):ルアラ・ザマニ『Sun Children(英題)』/イラン
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