多面性のある人物とスタイリッシュな世界観の虜に
2020年2月に公開され、コロナ禍においてもヒットした劇場アニメ『囀る鳥は羽ばたかない』。原作はヨネダコウが手がける同名のBLコミックだ。
・『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』ヨネダコウ インタビュー
「囀る鳥は羽ばたかない」は裏社会を舞台に描いており、現在単行本が6巻まで発売され、新刊の7巻は2021年3月1日に発売予定。単行本1巻に収録されている前日譚とも言える「Don’t stay gold」をアニメ化したDVDが付いた限定版も同時発売となり、この限定版は完全予約受注生産で2020年12月31日まで予約を受け付けている。ストーリーは新章に突入し、物語の行く末をファンは固唾を飲んで見守っている人気作だ。
裏社会を描いたBLは多いが、ヨネダコウの手にかかると一筋縄ではいかない。物語の主人公は淫乱で被虐的で痛めつけられるような行為を誰彼かまわず繰り返してきた、真誠会若頭の矢代。彼のもとへ用心棒として純朴で無骨な百目鬼(どうめき)がやってきて、愚直に働きながら盲信的に矢代に惹かれ始める。百目鬼は過去のトラウマから性的に不能であり、そのことから矢代を安心させる存在となり矢代は目をかけるようになる。
2人の絶妙なバランスの関係と組の抗争が絡み合いながら物語は進んでいく。多面性を持った人物がスタイリッシュな世界観の中で描かれて虜になる人は多く、さまざまなBLランキングで上位になることもしばしば。女性誌「FRaU」が主催する第3回フラウマンガ大賞では一般マンガを差し置いて大賞を受賞し、BL好きには神作品扱いされている。「囀る鳥は羽ばたかない」が劇場アニメ化されると発表された時にはBL界に衝撃が走ったほどだ。
平凡な物語もヨネダコウの手にかかると名作BLに!
原作者のヨネダコウの商業デビュー作は2008年に単行本が発売された「どうしても触れたくない」。こちらは前の恋で傷ついた影のあるサラリーマンの嶋と包容力のある上司との関係を描いたシリアスなラブストーリー。平凡な物語であるはずなのに、作家が上手いとこうも違うか思わされる作品で、号泣必至の力作だ。これがデビュー作だとは恐ろしいとまで思ってしまうほど。本作は2014年に実写映画化されて異例のロングランヒットも放っている。
また、「どうしても触れたくない」のスピンオフで「それでも優しい恋をする」があり、こちらはちょっとコミカルなテイスト。しかしながら切なく胸を締めつけるシーンもあり泣かされてしまう。
多様な世界を印象深く描くことのできる稀有な才能
他にも短編集の「NightS」があり、こちらは裏社会を描いた表題作と甘酸っぱい高校生もの、ガテン系というか自動車整備士とサラリーマンという3作が入っている。この短編集はヨネダコウの作家性を表していて、ジャンルは似通ったところはないのだが、そのどれもがちゃんと面白い。BLではない青年漫画の「Opーオプー夜明至の色のない日々」も手がけていてこちらは社会派ミステリーだ。
2017年にはデビュー10周年を迎えたヨネダコウだが、発表した作品数は決して多くはない。しかし、さまざまなジャンルを描く腕を持ち、さらにそのどれもが世界観を確立していて読み応えがあって印象に残る作品ばかりだ。言葉に頼らずに心情を掬い取って、読者に伝えるのが非常に巧い。これだけ描ける作家は稀有なんじゃないかと思う。今後もどんな作品を見せてくれるのか、楽しみな作家だ。(文:牧島史佳/ライター)
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