ヨーロッパではここ最近、フランスに続き、オーストリアでも「イスラム過激派」によるテロが発生し、緊張状態にある。イスラム過激派とは、自分たちが信じる真のイスラム思想を実現化するためには、テロや暴力も辞さない勢力のこと。しかしひとくちにイスラム過激派といっても、複雑な宗教的背景もあり、なかなか日本人には理解しづらい部分もある。世界ではいったい何が起きているのだろうか。映画などの映像作品を観ると、そのヒントが見えてくるかもしれない。
シリアの過激派組織に密着したドキュメンタリー『父から息子へ~戦火の国より~』
2019年の第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされた『父から息子へ~戦火の国より~』は、ベルリン在住のシリア人タラル・デルキ監督が、2年半にわたってシリアの過激派組織「ヌスラ戦線」に密着したドキュメンタリー映画。テロリストの父親は、オサマ・ビン・ラディンを敬愛し、長男にオサマと名付ける。そして幼い子どもたちは、いずれ兵士として戦場に行くことを当たり前だと思いながらも、少年兵養成キャンプで訓練を行う。過酷な未来が待ち受けているにもかかわらず、その日常はどこか無邪気で楽しそうだ。映画は、そんな家族の日常的な風景が映し出される。やがて、イスラム原理主義に染まっていく兄と、学校で勉強を望む弟の姿が映し出されるようになる。憎しみの連鎖は止められないのだろうか。そんな思いが浮かび上がってくる。
イスラム過激派に占拠された街の人々を描いた『禁じられた歌声』
アカデミー賞外国映画賞にもノミネートされた映画『禁じられた歌声』は、世界遺産に登録されている西アフリカ・マリ共和国の古都ティンブクトゥの美しい砂の街を舞台にした悲しきドラマ。ニジェール川のほとりの砂丘地帯で、父、母、牛飼いの孤児イサンとともにつつましくも幸せな生活を送っていた少女トヤ。しかし街はいつしかイスラム過激派のジハーディスト(聖戦戦士)に占拠され様相を変えてしまう。兵士たちが作り上げた法によって、歌や笑い声、そしてサッカーでさえも違法となり、住民たちは恐怖に支配されていく……という物語だ。イデオロギーや宗教的対立によって生じる災厄と、不条理で過酷な現実を見つめながら、やがて悲しみ、怒り、やるせなさといった感情がわき起こる。
なぜ友人はISISに加わってしまったのか…『シュガーランドの亡霊たち』
Netflixのドキュメンタリー作品となる『シュガーランドの亡霊たち』は、ムスリムに改宗したテキサス在住の黒人青年が、イスラムの過激派組織ISISに加わったと知り、強いショックを受けた友人たちが登場するドキュメンタリー作品だ。なぜ彼はISISに参加したのだろうか。友人たちは共に過ごした日々を振り返り、彼が過激派に走った理由を考える。彼のためにもっとできることはあったのではないかと……。(文:壬生智裕/映画ライター)
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