『ゼロの焦点』など多くの話題作を手掛ける作曲家・上野耕路
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80年代に戸川純らとバンド、ゲルニカを結成してデビュー
【日本の映画音楽家】上野耕路
戸川純らと結成したバンド、ゲルニカのキーボード奏者として1982年にデビューした上野耕路。日大藝術学部で作曲を学び、楽理やオーケストレーションに明るいことから、近年は『ゼロの焦点』(2009年)、『ヘルタースケルター』(2012年)、『のぼうの城』(同)、『マエストロ!』(2015年)、『火花』(2017年、Netflixオリジナルドラマ)、『最高の人生の見つけ方』(2019年)などの劇伴を精力的に手掛けるかたわら、自身のソロやユニットでの作品もリリースしている。そんな上野耕路の映画音楽家としてのキャリアに大きな影響を与えたのが、当コラムでも先に取り上げている伊福部昭と坂本龍一の二人だ。
・『ゴジラ』の単純でいて強烈なメロディーを生み出した伊福部昭
『ゴジラ』の音楽で知られる伊福部昭から指導を受ける
伊福部昭とは、ゲルニカのメンバーとしてデビューした約1年後、雑誌のインタビュアーとして初めて対面している。もともと上野が『ゴジラ』や『大魔神』の音楽で伊福部作品のファンだったのに加え、伊福部もゲルニカのアルバム『改造への躍動』を持っていたことから交流が始まり、伊福部の怪獣映画音楽の再録アルバム『オスティナート』のための譜面づくりを担当することに。ここで伊福部から徹底的に記譜法を叩き込まれたとか。また、作曲においても「音楽の終わらせ方」などについて厳しく指導されたそうで、1999年にリリースしたソロ作『Chamber Music』でようやく「実に立派なものができた」と褒められたという。
『ラストエンペラー』などで坂本龍一をサポート
そして坂本龍一。ゲルニカのデビューアルバム『改造への躍動』は細野晴臣によるプロデュースが当時話題になったが、上野が映画音楽の世界で躍進するきっかけを与えたのは、細野と同じYMOのメンバーだった坂本である。坂本が音楽を担当した『子猫物語』(1986年)への参加を皮切りに、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987年)、『ラストエンペラー』(同)などで坂本の右腕として活躍している。
特に『ラストエンペラー』は、のちに坂本が自伝『音楽は自由にする』(新潮社)の中で「地獄のようなスケジュールだった」と記すほど過酷なもので、坂本と上野は2週間の制作期間をほとんど不眠不休で過ごしたという。東京で1週間かけて作曲・録音した44曲を持って、映画の編集作業が行われているロンドンへ。そして編集によって変わった箇所のスコアを書き直し、録音し直すという作業を1週間続行。作業が終わったと同時に坂本は過労により入院したというから、その激務ぶりがうかがえる。しかしその苦労が報われ、坂本は日本人初のアカデミー賞作曲賞を受賞。これが上野にとっても大きな契機となったことは間違いなく、1989年には単独で『帝都大戦』と『ウンタマギルー』の2本の劇伴を担当している。
上野耕路ならではの個性とセンスが光る映画音楽にも期待
現時点での最新の映画音楽は『水上のフライト』(2020年)。正直なところ、映画音楽家としての上野耕路の個性は、ゲルニカやソロ作品などで聴けるほど際立ったものではなく、どちらかと言えば職人に徹している印象が強い。伊福部昭と坂本龍一に薫陶を受けた音楽家として、より上野耕路らしい捻れたセンスが光る映画音楽もたまには聴いてみたくなる。
(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
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