『あの夏、いちばん静かな海。』から『Dolls』まで7作品のサントラを担当
【日本の映画音楽家】久石譲(2)
映画音楽家としての久石譲のキャリアで、スタジオジブリ作品に次いでよく知られているのが北野武監督作品への参加だろう。『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年)を皮切りに、『ソナチネ』(1993年)、『キッズ・リターン』(1996年)、『HANA-BI』(1998年)、『菊次郎の夏』(1999年)、『BROTHER』(2001年)、『Dolls』(2002年)まで計7作品のサウンドトラックを担当している。
・【日本の映画音楽家】久石譲(1)/『風の谷のナウシカ』が原点、ジブリ作品に欠かせない久石譲の音楽
久石譲は2006年の著書『感動をつくれますか?』(角川書店)の中で、北野監督との出会いを「一面識もなく、どうして僕に白羽の矢が立ったのかわからなかった」と振り返っている。『あの夏~』以前の北野映画2作『その男、凶暴につき』(1989年)と『3-4×10月』(1990年)をすでに見て気に入っていたものの、作風的に自分のところに依頼が来るとは思っていなかったという。
久石が語った宮崎駿と北野武の音楽アプローチの違い
聾唖者を主人公とした映画ということもあって、『あの夏~』はもともとセリフの少ない北野映画の中でもとりわけ沈黙が多い映画だ。加えて北野監督から「普通なら音楽が入るような箇所に音楽を入れるのをやめましょう」という提案があったということで、この映画のサウンドトラックにはラブストーリー然とした抑揚のある楽曲は見当たらない。ただし、メインテーマの「Silent Love」は、曲が進むに連れて柔らかな女性コーラスやアコースティックギターのソロが重なるロマンティックな楽曲で、これは北野監督のお気に入りということで採用されたのだとか。
『あの夏~』に限らず、『菊次郎の夏』の「Summer」や『HANA-BI』の「HANA-BI」など、久石譲が音楽を担当した北野監督作品では穏やかでメロディアスな楽曲はテーマ曲に留め、劇伴では抽象的でクールなミニマルミュージックを主体とすることが多い。ある海外プレスのインタビューで「宮崎駿と北野武それぞれの作品への音楽アプローチの違い」を聞かれた久石譲は、「宮崎監督作品はメロディが主体、北野監督作品はよりミニマルミュージック的なサウンドで」と答えている。物語と“並走”してドラマ性を盛り上げる宮崎監督作品は足し算的、ピンポイントで見る者の感情に揺さぶりをかける北野監督作品は引き算的なアプローチと言っていいかもしれない。
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優れたアーティスト同士の再タッグを期待したい
2002年の『Dolls』以降、北野武監督作品の音楽に久石譲が起用されることはなくなり、近年は『座頭市』(2003年)や『アウトレイジ』(2010年)の鈴木慶一が多くの作品を担当している。とはいえ、久石譲はコンサートでたびたび北野映画の楽曲を取り上げているし、『あの夏~』『菊次郎の夏』『HANA-BI』『Dolls』といったジェントル・サイドの北野武監督作品において久石の音楽が果たす役割は少なくない。またいつかタッグが組まれることを期待したいコンビである。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
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