『おくりびと』や『海獣の子供』など途切れることなく映画音楽を手がける
【日本の映画音楽家】久石譲(3)
作曲家・久石譲の活動で一番よく知られているのは、やはり映画音楽だろう。スタジオジブリ作品や北野武監督作品のほかにも、古くは『Wの悲劇』(1984年)や『早春物語』(1985年)、近年では『おくりびと』(2008 年)、『二ノ国』(2019年)、『海獣の子供』(2019年)など、メジャーな作品から通好みな作品まで膨大な数を手がけている。
・【日本の映画音楽家】久石譲(2)/映画音楽家・久石譲が90年代の北野映画で果たした役割
2000年以降だけを見ても、音楽を担当した映画が公開されなかった年は2015年のみで、それ以外は毎年少なくとも1本か2本(多いときは4本から5本)の映画音楽を世に送り出しながら、テレビドラマやCM音楽、施設やイベントのテーマ曲、アーティストへの楽曲提供などもかなりの数をこなしているのだからすごい。
アート性と大衆性がバランスよく融合したソロアルバム
他者に提供することを前提としたそういった作曲活動と並行して、ここ数年の久石譲は自身の名義によるソロアルバムの制作と、自身が指揮者を務める純クラシックのコンサートおよびアルバムの制作にも力を入れている。
ソロアルバムで特にインパクトの強い作品が、2009年の『Minima_Rhythm』(ミニマリズム)。2015年に『Minima_Rhythm II』、2017年に『Minima_Rhythm III』と続編がリリースされていることからも、本人の思い入れの強さがうかがい知れる。反復を基本とする現代音楽の一種、ミニマルミュージックをルーツに持つ久石のアート性が全開のシリーズでありながら、曲の随所に大衆性を含んだフレーズが必ず織り込まれているところがこの人らしい。音楽の“両端”を知り尽くしていなければ持ち得ないバランス感覚で、難解なイメージを持たれがちなミニマルミュージックを聴き手に分かりやすく提示してくれる作品である。
なお、これまで手がけた映画音楽を中心に、自作曲を再録音した2010年のベストアルバム『Melodyphony』(メロディフォニー)は、久石譲の大衆性を結晶させたという意味でアート性の高い『Minima_Rhythm』と合わせ鏡のような関係にある作品。どちらもロンドン交響楽団を指揮して録音されたリッチな響きがたまらない。
オーケストラを率いて指揮者としても活躍
純クラシックの指揮者としては、2019年に結成されたフューチャー・オーケストラ・クラシックスを率いての演奏会などが話題になっている。ベートーヴェンやブラームスの交響曲を、あくまでも作曲家としての視点から解釈するの久石流の指揮が好評を呼び、これまでクラシックに興味のなかった新しいリスナーも増加しているという。なかなかビジネスとして成立させることが難しいと言われるクラシック/フルオーケストラの世界にあって、久石譲が今後果たす役割は決して小さくないはずだ。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
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