【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第21回】
ぼくの映画のコラムを読んで、映画を見ようと思う人がどれだけいるのか。
紹介した映画を見に行ってくれた人がどれだけいるのか。
ゼロではないだろうが、そんなに多くはないと思う。
体感でわかる。
なんとなくわかる。
映画という芸術に少しでも貢献していればいいなあとなんとなく漠然と思っていたので、現状は少し残念だ。
よく考えてみたら、そんなことも考えてなかった。
失礼しました。
ただ映画に少しでも絡めたことを綴っていただけだった。
ひとりでも映画でも見るかと思っていただけてたら、まあそれはそれでいいかもしれないと思っています。
「映画みたいなことしない?」という本に出会いました。
著者は、エヒラナナエさん、大沢かずみさん、カナイフユキさん、田辺俊輔さんの4名。
みなさんイラストレーター。
~この本は、思わず真似したくなるような映画のワンシーンを、4人のイラストレーターが紹介する、ちょっと変わった映画案内です。~
とまえがきに書いてありました。
好きな映画の印象に残っているシーンやアイテム、思い出などを、実に自由に1000文字くらいの短い文章とイラストで紹介しているシンプルな本です。
映画のあらすじや分析などではない。
実に個人的です。
日記を読んでいるかのよう。
これがとっても面白い。
簡単に読めるし。
いつもポケットに入れて置きたくなる、そんな本。
イラストにも個性があって、映画の好みの個性もあって、切り取りかたにも個性が癖があって。
みなさん記憶力が凄いんだなあと感じる。
絵を描く人というのは記憶力が必要なのかもしれません。
なによりみなさんの書く文章が素晴らしい。
本当に素晴らしい。
詩的で。瑞々しくて。
文章とイラストのタッチが比例してるような気がして。
映画監督はこの4人の方々に批評してもらったほうがいいと思う。
批評というか、紹介でしょうか。
絶対に喜ぶと思う。
ぼくも落語をこの方々に紹介してほしい。
みんな落語会に足を運びたくなるような気がするんです。
押し付けがましくなく、スキップして出掛けたくなるような、そんな案内書。
正直言うと、きっとこの本のなかで紹介している映画は見たくなるけど、見たら面白くない作品もあると思う。
というか、紹介文とイラストのほうが映画本体を越えてる。
いいもの見たなあと思わせてくれる本。
この本そのものが映画に絡めた作品になっています。
いちばん心に残ったのは、1976年のイタリア映画「ラストコンサート」を紹介した1篇。
タイトルは「いつか、ふたりの映画になる」というもの。
好きな映画は? と聞かれたときに、すぐに答えられるようにしとかなきゃという話。
亡くなられた父親の好きな映画と家族がどう向き合っていくかというものなのですが、短い文章なのですが、それはそれはもう素晴らしいです。
ぼくが選定員だったら芥川賞あげちゃう。
選定員として生まれてきたかったと悔やんだほどです。
みなさん、なんちゅう感受性してるんだと感激する1冊です。
ぜひ。
ちなみに何度も書いていますが、海外ドラマ『ブレイキング・バッド』が超面白いんで見てほしいです。
ちょーーーーー面白いです。
どこがと聞かれても全然覚えませんが、超面白いことだけ覚えてます。
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
プロフィール/瀧川鯉八(たきがわ・こいはち)
落語家。2006年瀧川鯉昇に入門。2010年8月二ツ目昇進、2020年5月真打昇進。落語芸術協会若手ユニット「成金」、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」所属。2011年・15年NHK新人落語大賞ファイナリスト。第1回・第3回・第4回渋谷らくご大賞。映画監督アキ・カウリスマキが好きで、フィンランドでロケ地巡りをした経験も。
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