インテリアにも注目! 『ファーザー』でアンソニー・ホプキンスが住む”変化する”アパート
#アンソニー・ホプキンス#インテリア#オリヴィア・コールマン#ピーター・フランシス#ファーザー#プロダクション・デザイン#ライフスタイル#映画の中のインテリア
同じ場所なのに変化していく空間。アパートは“もうひとりの登場人物”
先日発表された第93回アカデミー賞で主演男優賞と脚色賞を受賞した映画『ファーザー』が5月14日より公開を迎える。アンソニー・ホプキンス&オリヴィア・コールマンというオスカー俳優2人の共演が話題だが、本作のカギとなる“もう1人の登場人物”、主人公が暮らすアパートの素敵なインテリアをご紹介したい。
本作を手掛けたフロリアン・ゼレール監督が「彼はセンスがいい人物だ」と語る通り、アンソニー(ホプキンス)が独りで暮らすロンドンのアパートは、モダンで洗練されている。ロンドンの高級住宅街であるチェルシーやメイフェア辺りにありそうな佇まいだ。そこに娘のアン(コールマン)が訪ねてきて、自分はパリへ引っ越すのだと告げる。
アンソニーは同じ1軒のアパートで寝起きしているはずなのに、その内装が少しずつ変化を見せ始める。登場人物の会話に集中していると気が付かないが、ふと背景に目をやると、さっきとは何かが違う。なんとなく雰囲気が変わったな? 廊下の照明は前からあの形だったっけ……そうして観客は、迷路のように時間と空間が屈折した世界、認知症に冒されたアンソニーの現実をともに体験することになる。
父と娘、異なる雰囲気を演出した巧みな色使い
コールマンも「セットの使い方に感銘を受けた」と称賛するアパートの内装を創り上げたのは、プロダクション・デザインのピーター・フランシス率いる美術チーム。これまで『タイタニック』(97年)、『ハリー・ポッターと賢者の石』(01年)、『バットマン ビギンズ』(05年)など数々のヒット作に携わってきたフランシスだが、本作の脚本を読んでかなり技術的な挑戦になると考え、「すべての物語が変わりゆくアパートの中で起こるのだという事実を肝に銘じた」と振り返る。
「アンソニーのアパートが実はいくつかの場所であることを、最初から心に留めてセットを構築しました。アンの住まいへと変化した空間は同じ場所ですが、異なる雰囲気を目指したんです。しかしこれが厄介でした。構造や家自体は同じで、ドア・窓・幅木に至るまですべてが一緒ですからね。変わったのは色と家具だけです」
フランシスが目指したのは、2つのアパートの異なる雰囲気作り。そこにおいて大きな役割を果たしたのは、色だ。アンソニーが40年間住み続けるアパートは、ゴールド・オークル・クリーム色などの黄色を基調とし、グリーンをポイント使い。家具やカーテン・絨毯などは茶系で落ち着きがあり、オペラを聞くためのオーディオセットや、チェス盤、ウィスキーボトルなどアンソニーの趣味と思われるアイテムが並んでいる。
一方、アンのアパートは、淡いグリーンの壁に、ブルーのソファやピンクのクッションなどを合わせた柔らかい雰囲気。窓際のピアノのあった位置にはドリンク・キャビネットが置かれ、壁にかかっていた暗い抽象画も爽やかな風景画に変わっている。家具や絵画を別のものに取り替えても、間取りと配置(どちらもシンメトリー)を変えないことで、あえて気付かれにくくしているそうだ。
そしてセットがアンソニーの家でも、アンの家でもない、第3の場所へと変化を遂げた時、物語は静かにエンディングを迎える。俳優たちの珠玉の名演を見るのに忙しいかもしれないが、物言わぬセットに秘められたこだわりにも注目してほしい一作だ。(Sara Suzuki/London)
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