名優たちの騙し合いと嬉々とした演技に引き込まれるガイ・リッチー最新作
ガイ・リッチー監督が原点に戻ったクライム・コメディ『ジェントルメン』
【週末シネマ】『シャーロック・ホームズ』シリーズ、『アラジン』と、いつの間にかメジャーな大作映画の監督になっていたガイ・リッチーが、90年代の初期作品『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『スナッチ』を思わせるスタイルに戻った『ジェントルメン』。
ロンドン暗黒街に君臨するアメリカ人の大麻王がビジネスからの引退を考えたことで巻き起こる抗争、その渦中の熾烈な駆け引きをブラックユーモアをまじえて描くクライム・コメディだ。
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マシュー・マコノヒー、ヒュー・グラントらの楽し気な演技に引き込まれる
留学生としてやってきたイギリスで悪の才能を開花させ、一代でマリファナ王国を築き上げたミッキー(マシュー・マコノヒー)が巨万の富を生むビジネスから手を引くという噂が流れる。それを丸ごと我が物にしようと企んだユダヤ系大富豪(ジェレミー・ストロング)、チャイニーズ・マフィア(ヘンリー・ゴールディング)やロシアン・マフィア、そこにタブロイド紙の編集長と私立探偵フレッチャー(ヒュー・グラント)、さらに不良グループを仕切る“コーチ”(コリン・ファレル)まで絡む物語は、それぞれがいかに相手を出し抜くか、その騙し合いが面白い。
『ロック・ストック~』などと似て非なるのは、あの頃の主役の若者たちが敵に回していた壮年世代がメインキャラクターになっているところだ。変わらないのは、差別も何でもありの毒舌の応酬。もはや時代にそぐわない内容もあり、評価は分かれるところだが、その結果、醜さも含めた裏社会の実態がリアルに映る。そして何より、豪華なキャストたちが実に楽しそうに演じている様子は、相手の腹を探り合い、罠を仕掛け合うストーリー以上に引き込まれる。
役に合わせたお洒落な装いもガイ・リッチーならでは
リッチー監督は、タブロイド紙にネタを売って荒稼ぎするフレッチャーが、ミッキーの右腕であるレイ(ハナム)に自作の映画脚本の売り込みをするというメタな構成で物語を進めていく。フレッチャーの目的はレイたちを脅迫することだが、まるで映画プロデューサーにプレゼンするかのように撮影法にまで言及し、今まさに私たちが見ている映画を語っていく。
実生活で、タブロイド紙を相手取って盗聴をめぐる訴訟を起こしたグラントが自らの天敵を演じる。しかも台詞はコックニー訛り。デヴィッド・ベッカムのように喋るヒュー・グラント、そして『ダウントン・アビー』の長女メアリー役で知られるドッカリーが“コックニーのクレオパトラ”の異名をとるパンチの効いたクール・ビューティを演じる姿を見るだけでも十分楽しい。
ロンドンのカウボーイ・シーザーとして堂々たるテキサス訛りのマコノヒーは安定の風情で、頼れるNo.2役のハナム、『クレイジー・リッチ』の御曹司とは別人のように血気盛んなゴールディング、何気に大活躍するファレルも、とにかく生き生きしている。役に合わせて選び抜かれた全員の装いも、おしゃれな監督の気合いを感じる見どころだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ジェントルメン』は2021年5月7日より公開
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