世界中を涙にくれさせたベストセラー小説を映画化した『愛を読むひと』。10代の少年と年上の女性との性愛を軸に、戦争の傷跡や愛の切なさ、人生の悲しみが、繊細なタッチで綴られていく。監督は、『リトル・ダンサー』『めぐりあう時間たち』のスティーヴン・ダルドリー。原作に魅了されたという彼が、原作の、そして映画の魅力について語った。
「ストーリー自体に心を打たれた」というダルドリー監督。「原作の魅力は言葉では説明しきれない部分もありますが、一番は、倫理上の複雑さに惹かれたから」と語る。物語の舞台は第二次世界大戦後のドイツ。「ドイツは学生時代に時間を過ごしたこともあり、思い出のある国。あの国の複雑さや矛盾、影に惹かれ続けてきたので、ベルリンを舞台に、そういったテーマを探求するチャンスだと思ったんです」。
ベッドシーン演出の裏話
少年と年上の女性の数十年に渡る関わりを描いた作品だが、ヒロインを『タイタニック』のケイト・ウィンスレットが、成人後の主人公を『イングリッシュ・ペイシェント』のレイフ・ファインズが演じている。少年時代の主人公を演じたのは、世界的には無名の存在だったドイツ人俳優デヴィッド・クロス。きわどいベッドシーンも多い難しい役を見事にこなし、名優たちをも凌駕(りょうが)する鮮烈な印象を放っている。
「少年役のキャスティングは、この映画の重要な要素でした。ドイツの物語なので、この役はぜひドイツ人でという思いが強くあり、若いドイツ人俳優をオーディションで探したところ、キャスティング担当者から『推薦できるのは1人しかいない』と言われたんです。それがデヴィッドでした」
キャスティングされた時点では15歳だったクロス。ベッドシーンは18歳になってから撮影するようにスケジュールが組まれたという。
「ベッドシーンや親密なシーンは、ケイトとデヴィッドと一緒に綿密にリハーサルをして、ちょっとした動きも含めて事細かに決めていきました。そしてそれを、撮影の一番最後の数日でまとめて撮ったんです。デヴィッドに『即興で何かしなければ』というプレッシャーを与えないように、ものすごいスピードで、サッサと進めていきました。彼は大変に才能のある素晴らしい若手俳優。ドイツでも大きな期待をかけられているので、この先も長いキャリアを築いていけると思います」
オスカーを受賞したケイトの「サプライズ演技」
一方、ケイト・ウィンスレットとは、「サプライズを楽しみながら撮影していった」と監督。
「私は舞台出身なのでリハーサルが大好き。だから撮影に入る時には、だいたい準備万端です。でも、ケイトも私もサプライズが好きなので、予定になかったシーンをいきなり撮影したりもしました。スタッフは大慌てですが、私たちは楽しんでいましたね(笑)」
劇中で主人公の少年は、ケイト扮する女性との情事の前に必ず本を朗読してあげるのだが、「朗読シーンでは、デヴィッドはちゃんと動きが決まっていましたが、ケイトは何も決めていないことが多く、サプライズを楽しんでいましたね」と話していた。
本作でケイト・ウィンスレットはアカデミー賞主演女優賞を受賞。02年の『めぐりあう時間たち』ではニコール・キッドマンが同賞を受賞しており、今や「女優にアカデミー賞をもたらす名匠」としても有名なダルドリー監督だが、女優の才能を引き出すコツなどはあるのだろうか。
「コツも秘密もありません(笑)。(評価が高いのは)最高の女優さんを主人公に据えることができたからです。この映画については、ケイトが演じたハンナという女性は、原作の小説でも脚本でも『他人から見たキャラクター』として描かれています。なのでケイトは、他人の視点を結び合わせ、共感できる人物像を作ることに挑戦しなければなりませんでした」
ダルドリー監督作品の特徴は、客観的な視点の中に人の温もりがにじむ点だが、映画作りについて、「私は舞台出身なので、俳優を愛するということを大切にしています。映画でも俳優さんとは近しい関係を持つことが多く、それを喜びにも感じています。温かさを感じてもらえる要因は、そういうところから出ているのかもしれませんね」と語っていた。
『愛を読むひと』は、朗読の日でもある6月19日より、TOHOシネマズ スカラ座ほかにて公開される。
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