世界中で起きている紛争もコツコツと積み上げていけば、解決しない紛争はない
北朝鮮強制収容所の過酷な環境を生き抜く家族を描いた3Dアニメーション映画『トゥルーノース』が6月4日から公開となる。強制収容所の非人道的な実態を告発するメッセージ性と、アニメ映画としてのエンターテインメント性が高く評価され、国外の映画祭でも受賞を果たしている。
監督と脚本を手がけた清水ハン栄治氏は、横浜市出身の在日コリアン4世。高校を卒業後、アメリカの大学に進学し、起業するも失敗。帰国後はリクルートに転職し、35歳で脱サラして映画を作り始めたという異色の経歴の持ち主だ。
経歴と同様に、本作が完成に漕ぎ着けるまでの道のりも波乱万丈だ。監督自ら製作資金集めのためにアメリカ、ヨーロッパ、中南米など世界各国を飛び回るも出資者探しは難航。ハリウッドにある会社が興味を示してくれたものの、突然連絡が途絶えて断られたこともあったという。
そこで監督は計画を変更。インドネシアで現地のアニメーターと共に、3Dアニメーション作りに着手する。構想から完成まで10年の月日がかかっても、資金が集まらず計画変更を迫られても、それでも本作を世に出したかった理由とはなんだったのだろうか。それには監督の生い立ちとも関係があるようだ。
「世代別に日本人の在日への感情を見てみると面白くて、僕より下の世代だと(韓国系は)結構チヤホヤされるんですよ。韓流ブームの影響で。(中略)たった20~30年で、いがみ合っていた人種同士が、韓流なり、クールジャパンなりのソフトコンテンツを一生懸命に流し合っていくことで変われるポテンシャルを持っている。
例えば、パレスチナとイスラエルの問題も、この後の100年、200年も同じなのではないかと悲観的にもなるのですが、“いや、待てよ”と。『東アジアの人たちは、たかが15年、ソープオペラ、いわゆるメロドラマを流していただけで仲良くなっちゃったよ』ということを考えると、じゃあ世界中で起きている紛争も、時間をかけて、ちゃんと真面目にソフトコンテンツを作って、“あなたも私も同じ、痛みを感じる人間なんだよ”という部分、共有できる部分を広げて、コツコツと努力を積み上げていけば、解決しない紛争はないんじゃないかなと思っています」
清水氏のお話を聞くと、本作をどこかで、政治的な響きのある“北朝鮮問題”を扱った映画だと一括りに敬遠していたのではということに気付かされる。「僕は政治的な議論はしていないんですよ」と清水氏は語る。「強制収容所で無実の子どもたちが泥まみれで働かされているという事実は、絶対に150%の確率で『いけないことです』って言えますよね。政治のことは分からなくても。だから、それだけ言い続けていこうかなと思っています」
インタビューでは、監督のこれまでの人生や、映画完成までの様々なエピソードもたっぷりと語られている。強制収容所問題にとどまらず、今“あきらめたくない何か”を持っている人の背中を押してくれるにちがいない。清水ハン栄治監督のインタビュー全文はこちら。
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