3人の高卒女性社員たちの奮闘を描く『サムジンカンパニー1995』
【週末シネマ】2000年代後半。韓国の一流企業に入社するには、TOEIC900点台が必須条件という話を聞いた。1995年が舞台の本作『サムジンカンパニー1995』でも、TOEIC600点以上とれば代理に昇進できると好条件を”エサ“に、女性社員たちが必死に英語を勉強する場面から始まる。
しかし、本作の主題は別のところにある。サムジン電子の雑用係の女性社員イ・ジャヨン(コ・アソン)は、退職した社長が所有していた金魚を捨てに近くの川に行った際、大量の魚の死骸を目撃してしまう。それは、サムジン電子の工場排水が原因であることは明らかであり、近辺の住人たちにも謎の病気や皮膚病が発覚。すぐにでも検査を依頼したいが、一介の高卒女子社員がそれを提案するにはハードルが高く、仲のいい女子社員チョン・ユナ(イ・ソム)、シン・ボラム(パク・ヘス)も巻き込んでの一大プロジェクトを目論む。その後、とんでもない数値が発覚し、何者かによる検査結果の隠蔽や工作をはじめ、様々な困難が彼女たちを待ち受ける…。
あきらめない、くじけない! 彼女たちの姿に勇気をもらえる
筆者自身、彼女たちと同じように90年代にOLをしていたため、会社の不正のために彼女たちが行動を起こすということは、かなりの勇気が必要だということが理解できる。例えて言うなら、まだ年端のいかない子どもが大人に一丁前に意見を言うようなもので、下手をすれば相手の怒りを買うのはもちろん、解雇をも免れない状況だ。
本作でも、真実が明るみになるにつれて、時に失望するようなことも交えつつ、とてつもない妨害が彼女たちに襲いかかる。シリアスに思えるような場面でも、スパイ映画を彷彿とさせる演出が満載で、彼女たちの冒険心、探求心をコミカルに描いているのがせめてもの救いだ。「普通ならここで諦めるでしょ」と思えるような困難に遭っても、決してくじけない彼女たちの姿にはおそらく誰もが勇気をもらえるだろう。
1995年よりは女性の地位が向上したものの……。
冒頭の話に戻ると、教育熱心な韓国の親は我が子を英語のネイティブにするために、子どもが小さいうちから母子だけアメリカに移住するらしい。その結果、夫婦関係に亀裂が生じ、離婚が異常に増えたという背景があるようだ。
本作のサムジン電子では、新任社長がアメリカ人であるものの、英語を使うような場面はほとんどない。そして、幹部のおじさんたちよりも、雑用係の彼女たちの方がよっぽど仕事ができるというのは見ている誰もが理解できる。つまり、高卒であることを理由に仕事のできる女性たちを認めないという会社、すなわち社会全体を風刺している問題作といえる。
2021年になり、社会全体がだいぶ変わってきているとはいうものの、特に日本においては女性の幹部社員が異常に少ないことは未だに問題となっている事実である。だからといって最初から諦めることはない。目の前の小さいことに目を向けながら、会社および社会全体をよくしようという気持ちで動けば何かが変わる。そんなことを教えてくれる痛快作だ。(文:渡邉啓子/ライター)
『サムジンカンパニー1995』は、2021年7月9日より順次公開
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